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いま世界の哲学者が考えていること
【第21回】 2017年3月14日
著者・コラム紹介バックナンバー
岡本裕一朗,原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

「倫理に反している」の一言で議論を止めるのはおかしい
原田まりる×岡本裕一朗 対談後編

17歳の女子高生、アリサが現代に降り立った哲学者・ニーチェと出会い、成長していくという異色の小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。その著者であり、哲学ナビゲーターとしても活躍する原田まりる氏と、現代の哲学の最前線を紹介した『いま世界の哲学者が考えていること』が(累計)4.5万部と大反響を呼んでいる岡本裕一朗氏。そんなお2人の対談は、互いの著書について、そしてこれからの哲学の在り方について、話がどんどん広がりました。

「倫理に反している」という
言葉そのものが説明されない限りは、納得できない

原田 岡本先生の『いま世界の哲学者が考えていること』ですが表紙のこの、「いつまでも『哲学=人生論』と思っているのは日本人だけ!」というコピーが…。「いつまでも『哲学は実存主義だけ』と思っているのは日本人だけ」という感じにも聞こえました(笑)。

岡本 いや、それは私が書いたものじゃなくて編集者が書いたものです(笑)。

原田 「スマートフォンの存在論」についての第2章を読んで思ったのですが、例えば、ブログとかSNSで自分の考えを書いて発信しても、人間は一貫性がないものだから、5年後に全く別の考え方に変わっている場合もある。なのに、第三者に「あなた5年前にこういうことを言っていたじゃない」と指摘されたりする。こういうSNSの怖さは、17歳の女子高生なんかに教えたいなと思いました。

岡本 ぜひぜひ、教えてください(笑)。

原田 今の女子高生って、カップルでアカウントを作ってキスしている動画をアップしたりしているけれど、それが見世物になっているという感覚や、ずっと残り続ける、黒歴史になり得るという感覚が薄いのですかね。監視されているという意識がないのに監視されているというのが、ネット社会の怖さだなと改めて思いました。

岡本裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。 著書に、『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』『12歳からの現代思想』(以上、ちくま新書)、『モノ・サピエンス―物質化・単一化していく人類』(光文社新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』『異議あり! 生命・環境倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)などがある。

岡本 この後どうなるか?を全く考えていないというか、気づいていない。いったんネットで情報を発表すると、情報は消えずに蓄積されていき、さまざまな形で拡散されていくのですが、多くの人はそういう意識を持っていないのが現状ですね。

原田 あと、「クローン人間の哲学」について書かれた第3章でも考えさせられたことがありました。もしも脳科学の研究が進んで、「道徳ピル」(他人をより援助するようにさせる薬)が開発されたら、脳の検査によって犯罪者(あるいは犯罪者予備軍)と非犯罪者を見分けて、「道徳ピル」によって犯罪を未然に防ぐとか、犯罪者を刑務所に入れる代わりに道徳ピルを飲ませるという選択肢が生まれる――という箇所がありましたが、そういう話になると「人間が手を加えるべき領域ではない」という答えに一度は落ち着きますよね。でも「なんで手を加えるべきではないの?」と問われたら、「何となくそんな気がする」で終わってしまう。人間って、未知のものが怖いから、そこで考え方を停止しちゃうのでしょうが…それってどうなのかなと。

岡本 新しいものに対する恐怖って、誰しも多かれ少なかれ持っているんですよね。新しいものが出てきて、それが理解できないものだと恐ろしさを覚えるというケース。でも「なぜ恐ろしいの?」と聞かれると、理由付けができない。…理由付けできないからダメというわけではないのですが、メリットを生み出そうとしているにもかかわらず、未知への恐ろしさだけに引っ張られて禁止してしまうというケースは、実は非常に多いんです。大体は「倫理的にダメ」という文句に落ち着くんですけれど、正当な根拠がない場合にこの言葉を持ち出して否定することが多すぎて。

原田 何となく不快感を覚えるから、これは倫理に反しているのだと結論付けてしまうんですよね。

岡本 そうです、そうです。でも、「倫理に反している」という言葉そのものが説明されない限りは、納得できないですよね。でも誰も「なぜ倫理的に問題があるのか?その根拠は?」とツッコまない。だから、さまざまな禁止事項とされているものに対して、もう一度問い直そうと思ってこの本を書いたんです。

原田 あ、そうだ!先生にぜひ聞いてみたいことがあったんです。本の中で「資本主義は21世紀でも通用するのか」などについても触れられていましたよね?「転売屋」の問題って、どう思われますか?

岡本 ああ、チケットなどを転売する?

原田 そうです。先日、橋下徹さんが「価値があるものは高く売れる」とチケット転売を容認する発言をされていて、私も「なるほど、そうだな」と共感したのですが。ただ、これも「倫理的に問題」と言われがちなテーマだと思ったんです。

岡本 私自身は、求める人がいるのであれば、転売自体は否定しませんね。害を生み出すものでなければ、それを否定する根拠はないんじゃないかと思います。

原田 では、「倫理的にダメ」と思ってしまう人を動かすにはどうすれば?

岡本 たぶん、そういう人たちは動かすことができないと思います。

原田 できない。どうしてですか?

岡本 基本的に、感情的に動く人たちは、理屈を使っても動かせないんですよ。なぜなら、論理的な根拠に基づいて考えているわけではなく、「好き、嫌い」で動いているから。「嫌い」という人に、好きになってもらうための根拠をさまざま挙げて「好きになって!」と言っても、それは難しいですよね。でも、例えば転売を例に挙げれば、状況が変わって転売でいろいろな価値が生み出されるということが社会的に認知され、ある程度定着していけば、「別にいいんじゃない?」と徐々に考えが変わっていくと思います。

原田 なるほど。確かにそうですね。そして、感情的に捉える人からしたら、論理的な根拠を持って考える人は感情論で話さないから、「冷たい」と捉えられがちなんですね。あーなんかすっきりした!

岡本 そうですか、それはよかった(笑)。

哲学者よりも「哲学好きな別分野」の人のほうが、より哲学を広められる

原田 『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』で書いた実存主義の哲学者って社会性に欠ける部分が多いんですが、現代の哲学者の方々は、おとなしい方が多いのですか?

岡本 そうですね。そもそもあまり知られていないという部分もありますが。本を出しても千部ぐらいからのスタートですし。

原田まりる(はらだ・まりる)
作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター 1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。

原田 それって、より専門的な哲学書を読む人が減っているということでしょうか?

岡本 それもあるかもしれませんし、「書き方」も大きな問題としてあると思います。今の研究者は、読者目線に立ったうえで読みやすい構成や書き方を考える、という視点が欠けているんですね。書籍も、読者に広く哲学を知ってほしいというよりも、「自分が研究してきたものを発表する場」という位置づけ。それが一つのステップアップの材料になると考えていて、印税をもらおうなんて思っていない。

原田 みんな研究者であって、哲学をわかりやすく解説して広めようと考えたり、哲学そのものを論じたり批評したりするような人がいないということですね。

岡本 他人事のように言っていますが、私も昔は、そんなに多くの人に理解してもらわなくてもいいという感覚を持っていました。例えば、学会で研究発表をしても、同じ哲学の学会の人でも全然理解してもらえなかったりするのですが、ほかの学会であればなおさら理解されないでしょうし、ましてや一般の方々に理解してもらえる感覚なんて、持てないんです。

原田 そうなんですか。

岡本 だから逆に、「大学院まで行って何年間も哲学の勉強をし続けている専門家」が本を書くよりも、むしろ哲学が好きで、興味を持っている人がその人の目線で本を書いたほうが、広く一般に受けいれられるかもしれません。だから、原田さんが「哲学ナビゲーター」としてこの小説を書いたからこそ、今までとは全く違った視点で哲学が表現され、哲学に興味がない人の心も動かすことができたんだと思います。

原田 ありがとうございます!そういう動きって実はほかの分野でも出つつあるんです。いま、哲学をコンセプトにしたアイドルグループがあるの、ご存じですか?

岡本 知りませんでした。

原田 東大の哲学科を卒業されたミュージシャンのヤマモトショウさんが楽曲制作に関わっているんです。詞の中に哲学用語がちょいちょい入ってくるんですよ。こういうさまざまな側面から、哲学に興味を持つ人が出てきたらいいなと思いますね。

岡本 哲学の勉強をしたくて大学院に進んでも、その中のごく一部の人にしか研究者としてのポストはありませんから、どんどん別の方向に流れていくでしょう。そしてその中から、「自分の素養を活かしながら全く別の形で哲学を広げていく」人が、これからさらに現れるかもしれません。新たな可能性につながりそうですね。

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岡本裕一朗[玉川大学文学部教授]

1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。
著書に、『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』『12歳からの現代思想』(以上、ちくま新書)、『モノ・サピエンス―物質化・単一化していく人類』(光文社新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』『異議あり! 生命・環境倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)、共著に『ヘーゲル入門』(河出書房新社)、『差異のエチカ』(ナカニシヤ出版)、共訳にトマス・ネーゲル『哲学ってどんなこと?―とっても短い哲学入門』(昭和堂)などがある。

原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


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