「原子力はクリーンエネルギー」と、いつだれが言い出したのだろうか。最初に聞いたのはいつだったか、どうしても思い出せないのだが、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)の3、4年後だったと思う。
はじめは悪い冗談だと聞き流していたが、1990年代に入ると地球温暖化の危機が国際的な大問題となり、発電時に炭酸ガスを排出しない「原発はクリーンエネルギー」として再登場したのである。チェルノブイリの教訓で脱原発を図ったのは、イタリア、スウェーデン、ドイツ、スイスなど、欧州の限られた国だった。
原発はたしかに炭酸ガスを排出しないが、放射性物質を出し、核廃棄物の最終処分をどうするか、まったく見通しが立っていない。大事故が起こればチェルノブイリ事故のように国境を越えて被害を与える。常識をもって考察すれば、クリーンだとはとうてい思えないのだが、いつのまにかクリーンエネルギーになっていた。
史上最悪の環境破壊はチェルノブイリ原発事故である。25年後の現在も半径30キロ圏内は立ち入り禁止だ。どうして「地球に優しいクリーンエネルギーの主役」に化けたのだろう。これは原子力産業と推進国政府によるPR作戦の勝利だった。
この3月29日の衆院予算委員会で、菅直人首相は「太陽エネルギー、バイオなどのクリーンエネルギーを世界の先頭に立って開発し、大きな柱とする」と答弁している。筆者が聞いた首相の発言の中で、もっとも明確なビジョンである。
この首相発言は、原発推進からの大転換と聞こえたが、はっきり言っていないので、あとで再転換するかもしれないが、少なくとも「クリーンエネルギー」の中に原子力は入っていない。
一方、米国のオバマ大統領は3月30日の講演で、「2035年までに電力の80%をクリーンエネルギーでつくる。原子力は風力や太陽光発電と同様、クリーンエネルギーである」と語っている。オバマ大統領は「クリーンエネルギー」に原子力を入れている。
「クリーンエネルギー」の言説をさかのぼっていくと、「炭酸ガスを排出しないからクリーンだ」という根拠に行き着く。地球温暖化防止の国際会議のたびに「クリーンエネルギー原子力」のPRが増えた。
このPRの中では、核廃棄物問題はまったく出てこない。「原子力は安全ならばクリーンだ」というわけだ。当たり前である。「問題を考えなければ問題はない」と言っているだけだった。