ブッシュ前政権でパウエル国務長官の補佐役として活躍したリチャード・N・ハース氏が、オバマ大統領のこの1年の外交手法の評価と、これからの課題を指摘する。

リチャード・N・ハース
リチャード・N・ハース(Richard N. Haass)
外交・国際政治専門誌「フォーリン・アフェアーズ」を発行する米外交問題評議会の会長。前政権では国務省政策企画局長としてパウエル国務長官を補佐。

 2009年は、バラク・オバマ大統領の外交手法がおおむね明らかになった年だった。オバマ政権は、本質的に是認できない特徴を持つ国の政権とでさえ、対話をすべきであると考えている。またそうするうえで、自国のみで強引に事を進めるのではなく、他国との協調の下に対話を進める方法を好む。また米国外交の主軸を、他国の内政問題から、他国が外交上何をやっているかに、移行させた。

 こうした特徴のいずれもが、オバマ大統領と前任のジョージ・W・ブッシュの違いを際立たせている。ブッシュ政権はいくつかの国を名指しして「悪の枢軸」との烙印を押し、おおむね相手にしなかった。他国との協調姿勢も、自国の活動に足かせをはめられることを嫌って、あまり取らなかった。また諸外国の行動に影響を与えるのではなく、彼らを変革しようとした。オバマの外交方針に曲がりなりにも似た方針を持っていた政権を探すとすれば、それは第43代大統領のジョージ・W・ブッシュ政権よりむしろ、彼の父親である第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュ政権だっただろう。

 もちろん外交は、好意と見られるべきでも、「弱腰」と見られる譲歩に傾くべきでもない。オバマは外交について、それが他の手段より好ましい結果を約束しているときには、外務政策上、採用すべき重要なツールであると、正しく理解している。

 彼はさらに、ほぼいかなるときも諸外国との協調主義が望ましいと考えている点でも、正しい。今日という時代をなによりも特徴づけている課題──核拡散、テロリズム、地球規模の気候変動、そして感染症の蔓延──に対処するには、協調的な行動以外に道はない。それ以上に、今日の米国は現実的にも、経済面でも軍事面でももはや手一杯で、自国だけの資源を頼むことはできない。

 最後に、諸外国に対して、その体制の性格よりも行動に着目している点で、オバマは正しい。時には唾棄すべき体制でも助けてやらなければならないというだけではない。他国のありようをつくり替えるほど難しいことはないからでもある。