「データセンターの水冷化は世界的な潮流ですが、ここ数年で起きている変化はもっとドラスチックです」。そう語るのは、日本ビー・エー・シー営業本部データセンター/新市場Gの久保田健嗣氏だ。
従来、データセンターの冷却は、冷凍機(チラー)で冷水を作り、その排熱を冷却塔が処理する構成が一般的だった。だが、GPUサーバーの発熱量が急増する一方で、サーバー自体の耐熱性能が向上し、より高い水温での冷却が可能になったことで、状況は一変した。
「冷凍機を使わず、冷却塔だけで直接冷やす『チラーレス(フリークーリング)』が可能になりつつあります。冷凍機は莫大な電力を消費しますが、冷却塔のファンやポンプの動力はその10分の1以下。チラーレス化は、データセンターの電力使用効率(PUE)を劇的に改善する切り札です」(久保田氏)
「世界の技術力」と「日本の現場力」 ハイブリッド体制が強み
日本ビー・エー・シーの強みは、その特異な出自にある。同社は1976年、冷却塔の世界シェアを3分するうちの1社、米国大手メーカーのボルチモア・エアコイル社(BAC)と、日本の空調業界をリードする新晃工業の合弁会社として設立され、間もなく50周年を迎える。
「グローバル市場で鍛えられたBACの先進技術と、新晃工業との連携による国内のきめ細かなエンジニアリング・保守体制。この二つを併せ持つ点が、外資系ハイパースケーラーから国内事業者まで選ばれる理由です」と代表取締役社長の平石忠孝氏は胸を張る。
日本ビー・エー・シー代表取締役社長
平石忠孝氏
特に、世界的な競争力を持つBACの製品ラインアップは強力だ。水と空気のハイブリッドで冷却する「ハイブリッドクーラー」や、散水で空気を予冷する「アディアバティッククーラー(ドライクーラー)」など、国内単独メーカーにない製品群を擁し、顧客の立地条件や「節水か、省エネか」といったニーズに最適な解を提示できる。例えば、ハイブリッドクーラーである「HXV」の場合、「空冷式システムに比べてエネルギー効率が年間60%の向上」と「密閉式冷却塔と比べ年間70%の節水」が期待できる。
同社が日本市場で長年支持されてきた背景には、技術的な必然性がある。その象徴が「押し込み型(強制通風式)」と呼ばれるファンの方式だ。一般的な冷却塔は、ファンで空気を吸い出す「誘引型」が多いが、BACは空気を強力に押し込むタイプが得意だ。日本の都市部では、景観や騒音への配慮から冷却塔を屋上でなく建屋内に隠したいという要望も多い。しかし、囲い込むと空気がうまく流れず、性能が落ちてしまうことがある。「当社の押し込み型は静圧が高く、ダクト排気や狭小スペースへの設置でも確実に性能を発揮できます」(久保田氏)。
日本ビー・エー・シー営業本部 データセンター/
新市場グループ
グループマネージャー
久保田 健嗣氏
この技術力が評価され、京都の有名ホテルなど、景観を最優先する施設でも採用されている。建物の意匠を損なわず、「黒子」として確実に熱を処理する技術は、日本の厳しい建築美学にも適応してきたといえよう。
そんな中、データセンターの建設において、地域住民からしばしば懸念されるのが「サーバー冷却の排熱による周辺気温の上昇(ヒートアイランド現象)」だ。しかし、久保田氏は「エアコンの室外機と混同され、大きく誤解されている可能性がある」と指摘する。「エアコンの室外機は高温の風(顕熱、温度変化を伴う熱)を直接吹き出しますが、冷却塔は水の蒸発潜熱(気化熱)を利用して熱を大気中に放出します。そのため、気温上昇が80%以上も抑えられ、周辺への影響も軽微です」(久保田氏)。
極限の節水と省エネを実現したハイブリッドクーラー「HXV」
一方で、海外製品の導入には「品質への不安」や「メンテナンスの懸念」が付きまとう。特に製造拠点が海外にある場合、輸送中の破損や製造品質のばらつきを懸念する日本企業は多い。
日本ビー・エー・シーは、この課題に対して、泥くさいほど真摯な体制で向き合っている。「米国や中国などの海外工場から届いた製品は、そのまま現場に直送しません。必ず横浜や名古屋の港で一度荷解きをし、当社の技術者が日本品質の基準で厳しく再検査を行います。微細な傷や不具合があればその場で手直しし、完璧な状態にしてから納入します。もちろん、製造工程へのフィードバックを行い、日本品質基準に基づいた現地工場でのチェックも実施しています」(平石氏)。加えて、外資系データセンター事業者が日本進出を加速する中、設備の信頼性も重要な選定基準となる。日本独自の基準ではなく、世界標準の第三者認証である「CTI認証」を取得している点も、同社の大きな強みだ。
「海外の事業者は、カタログスペック通りの能力が本当に出るのかを非常にシビアに見ます。第三者機関によって性能が保証されているCTI認証製品であることは、インフラ投資のリスクを低減させるための必須条件ともいえるものです」(久保田氏)
BACが米国のデータセンターで実用化している液浸タンク
現在、引き合いの約3割は、将来のGPUサーバー導入を見据えたものだという。AIインフラの拡大は待ったなしの状況だ。さらなる次世代技術として、サーバーを絶縁性の液体に直接浸して冷やす「液浸冷却」の準備も進む。米国のBAC本社では既に「PUE 1.05」という驚異的な数値を実現した実績があり、日本でも導入に向けた機運が高まっている。
最新技術を見て理解できる「BAC BASE」を開設
こうした最新技術を、カタログや口頭説明だけで理解するのは難しい。そこで同社は2025年、新晃工業の神奈川工場(秦野市)内に、大規模な展示・研修施設「BAC BASE」を開設した。ここには、主力製品である大型の開放式冷却塔「Series 3000」や、ハイブリッドクーラーの「HXV」、モジュール型の「Nexus」などの実機が設置されている。模擬負荷を与えた実運転の様子などを目の当たりにできる。
2025年に開設した展示・研修施設「BAC BASE」
「写真では伝わらないスケール感や、ハイブリッド運転の仕組みを実際に見ていただくことで、お客さまの理解度は格段に深まります。オープン以来、データセンター事業者さまをはじめ、延べ100社以上、約500人の方々にご来場いただいており、非常に手応えを感じています」(平石氏)
「チラーレス」という変革期を迎え、世界水準の技術力と日本品質の現場力で、日本ビー・エー・シーはデータセンター冷却の新たなスタンダードを築こうとしている。
