星空を見上げ続ける人はいても、天井を見上げ続ける人はいない。そういう人がいると、周囲は不思議に思う。しかし今、天井を見上げなければならない状況が生まれている。そこにBCP(事業継続計画)の鍵があるからだ。

東日本大震災があらわにした
新たな課題「天井の耐震化」

 2011年の東日本大震災。日本建築学会や国土交通省がまとめた同震災の報告書では、「非構造部材(大規模天井)の被害」を大きく取り上げている。報告書は、「ホールや体育館、工場などの大規模空間では、小規模なものよりも天井の崩落などの被害が多く見られた」と語る。

 建築性能基準推進協会の調べでは、同震災による天井脱落は回答分だけでも16都府県で151件あり、うち天井の面積が500平方メートル超が61%を占めた。また、被害建物の建築時期による大きな影響はなかった。

 建物は無事だったが、天井が落下して業務が継続できなくなった例は200件以上という調査報告もある。東北地方には自動車や電機・電子機器などの部品工場が多く、世界規模でサプライチェーンに影響が出たのは記憶に新しい。

 これらの数字に、日本の大規模施設の天井が抱えている大きなリスクが示されている。

 振り返ってみれば、大災害と建築技術の進歩は密接に絡んでいる。関東大震災では大火災が発生して建物の不燃化への取り組みが始まった。阪神・淡路大震災では建物の崩壊で多くの犠牲者が出、旧耐震設計基準の建築物や木造家屋の耐震改修技術が確立された。そして東日本大震災では津波からの避難システムの確立が課題になった。同時に、新耐震基準をクリアした建築物の崩壊は極めて少なかった一方で、喫緊の課題に浮上したのが「天井の耐震化」だった。

 現在、オフィスや工場などの天井として一般的に使われているのが吊り天井だ。天井板となる石こうボードを骨組みに取り付け、クリップを使って躯体から吊り下げる。東日本大震災では、強い揺れでクリップがはじき飛ばされて多くの吊り天井が落下した。今までの耐震設計は躯体を強くすることに主眼がおかれ、天井などの仕上げ材は重視されてこなかった。その点、吊り天井は価格が安く、短期間で施工できる申し分のない工法で、日本全体では5億平方㍍もの広さが施工されているともいわれる。

 おそらく阪神・淡路大震災でも多くの吊り天井が落下していたはずだ。しかし建物の崩壊に隠れて、吊り天井が抱えていたリスクを見えにくくしていた。