菅直人首相が中部電力に対し、浜岡原子力発電所の全面的な運転停止を要請した。だが、菅首相の決断は停止要請決定から発表に至るまでの手続き面に不備があり「唐突」であると批判されている。
これまでも「消費税10%発言」や「TPPへの参加表明」など、菅首相の「唐突」な決断は厳しい評価を受けてきた。しかし、例えば英国では政治指導者の「唐突」な決断は珍しくなく、国民もそれを問題視しない。なぜ日本では、菅首相の「唐突」な決断が批判されるのだろうか。
菅首相は
英国流意思決定を意識している
英国政治の特徴は「密室」での意思決定だ。首相など政治指導者の決断が発表されるまで、基本的にすべて非公開である。業界の要望や学者の意見を聴取する「審議会」はない。各省庁間や政治家間の調整はあるのだろうが、一切外部からわからない。
また、首相が増税を発表して、議会での審議なしに即日施行されるという、日本では信じられないこともある。要するに英国政治では、指導者が「密室」で立案した政策を、議会の審議なしに実行できる強力な権限を持っている。そして、指導者と国民の間の「信頼関係」が、その権限に正当性を与えている(第5回を参照のこと)。
菅首相はかつて著書で「民主主義というのは『交代可能な独裁』だと考えている。選挙によって、ある人物なり、ある党に委ねた以上、原則としてその任期一杯は、その人物なり党の判断に任せるべきである。間違っていたら、次の選挙で交代させればいい」(菅直人『大臣』岩波新書)と論じた。これは、英国流意思決定の考え方そのものだ。菅首相は「英国政治マニア」である。彼の「唐突」な意思決定スタイルは、英国流を意識した彼なりの考え方に基づいたものといえる。