東京電力の福島第1原子力発電所の事故の損害賠償をめぐり、本誌は政府が賠償スキームの根拠とした極秘資料を入手した。詳細を分析すると、国民だけに負担を強いる賠償スキームのいびつな構造が浮かび上がった。与党内からも批判が噴出し、その法案成立には暗雲が垂れ込めてきた。
「せっかく救済案をまとめたというのに、このままでは東電が倒産してしまう」
5月中旬、金融政策に詳しい民主党の中堅議員は、こんなことを口にした。東京電力の経営破綻が現実のものとなりつつあると感じていたからだ。そんな事態になれば、金融市場は大混乱に陥りかねず、危機感を強めていたのだ。
政府は、東電の福島第1原子力発電所事故をめぐる損害賠償が巨額になることを受け、賠償を支援するスキームの策定を急いでいた。5月に入ってからは閣僚間で詰めの作業を進め、13日に正式な政府案として発表する。
その中身は、一義的には東電が賠償責任を負うものの、賠償額が大き過ぎて支払えなくなった場合には、官民で新設する賠償機構に投入した資金を使って支援するというものだ。
ところが、政府内の了承も取り付け、あとは開会中の通常国会に法案を提出するのを待つだけだというのに、民主党内は大混乱に陥っていた。
「賠償は国が責任を負うべき」
「もっと東電のリストラを進めるべきだ」
政府案の発表後も、国や東電の責任をめぐって異論が噴出。民主党内の意見は大きく分かれ、今もなお党内には不満が燻り続けているのだ。
それもそのはず。民主党内での議論は、政府案発表の直前にしか行われておらず、党内調整は皆無に等しかった。そればかりか、「政府案への賛成が大前提で、まさに結論ありきの出来レース」(党幹部)だったため、多くの議員が納得しないまま公表されてしまったからだ。
「破綻させない」を前提に?
都合のいい数字積み上げ
確かに、与党内から異論が出るのも無理のない話。政府案の中身を詳細に分析すれば、じつに多くの火種を内包したものであるかが明らかだからだ。その足がかりは、本誌が独自に入手した内部資料にある。
これは、政府案を作成する際、東電の将来の財務状況について政府内部で独自に試算したシミュレーション。ペーパーの右上には、「会議後回収」の判が押されており、政府高官しか目にしていないものだ。