AIスーパーサイクルで存在感が高まるメモリ

「AI半導体は今、『スーパーサイクル』と呼ばれる局面に入っています」

マイクロンメモリ ジャパン代表取締役の野坂耕太氏は、需要が急拡大している現在の市場環境をそう表現する。AIの進化は、半導体デバイスの構造そのものを変えつつある。従来の情報処理では、演算性能を高めることが主眼だったが、生成AIでは「演算」と同時にメモリからの読み書きとデータ転送が頻繁に発生するため、「記憶」と「転送」がボトルネックになりやすい。そのため、メモリの性能や配置が、システム全体の効率を左右する要素として前面に出てきた。データセンター向けのコンピューティングボードを例に取ると、その変化は顕著だ。

「1枚のボードの中に演算を担うCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)があり、その周囲には大量のメモリが配置されています。例えばGPUの周囲には、最新世代の広帯域メモリであるHBM3Eを12層積層したメモリキューブが8基(計96個のメモリチップ)、また、全てのAI CPUには64個の低消費電力DRAMチップ(LPDDR)が搭載されています。さらに、AIサーバーに搭載されるメモリ容量は、2024年から28年にかけて約7倍に増加する見込みです」(野坂氏)

ここで重要なのは、AIシステムにおいてメモリが「付属部品」ではなく、演算能力と一体で設計される存在になっている点だ。CPUやGPU単体の性能が向上しても、それを支えるメモリの帯域や容量が不足すれば、処理能力は十分に発揮されない。AIの高度化とは、演算と記憶の同時進化を意味している。

かつて「コモディティー」と見なされることもあったメモリだが、その位置付けは劇的に変わった。ガートナーの世界全体のデータによれば、24年における半導体全体の売上高に占めるメモリの比率は25.2%にまで拡大している。「CPUやGPUだけではシステムは動かず、必ず大量のメモリが必要になるからです」と野坂氏は説明する。

AI時代において、メモリは数量・性能の両面で需要が拡大する「中核デバイス」へと転じたといえる。

マイクロンの強みは、この巨大な需要に対して、NAND型フラッシュメモリからDRAM、さらにはモバイル向けの低消費電力(ローパワー)メモリまで、全方位でプロダクトポートフォリオを持っている点にある。AIの進化がデータセンターから「エッジ」、すなわち車載やスマートフォンへと広がっていく中で、用途ごとに異なる要件へ対応できる柔軟性が競争力となる。

開発から量産まで一貫した「広島モデル」が生み出す競争優位

マイクロンのグローバル戦略の中で、日本の広島工場は単なる生産拠点以上の戦略的価値を持っている。25年に発表された経済産業省による最大5000億円規模の助成金認定も大きな話題となったが、その狙いは「先端技術と安定供給を目指したファブ(半導体製造施設)であり続ける」ことにある。

半導体は世代交代の早い産業であり、設備やプロセスが1世代遅れるだけで競争力を失いかねない。そのため、最先端ノード(最先端半導体製造プロセス)への継続的な移行は、単なる設備投資ではなく、企業戦略そのものと直結している。

広島工場の最大の特徴は、DRAMの研究開発(R&D)と量産が物理的に近接し、一貫して運営されている点にある。多くの半導体メーカーでは、開発拠点と量産工場が分かれ、一定の段階で技術を「移管」するが、広島では開発と量産が同じロケーションにあるため、量産化までスムーズに行うことができる。

この体制により、開発段階の知見が迅速に量産へ反映され、量産現場で得られたフィードバックが再び開発に戻る循環が生まれている。

「私は長年、『プロセスインテグレーション』という、装置や工程全体を横断して統合する役割を担ってきました」と野坂氏は振り返る。

「開発と量産を橋渡しし、コミュニケーションを取りながらプロセスを構築する。この『広島モデル』こそが、タイム・トゥ・マーケット(新製品を市場に投入するまでの期間)を劇的に短縮させるマイクロンの強みの源泉です」

この成功体験は、グローバルに横展開されつつある。現在、米国アイダホ州ボイシで建設が進んでいる最新鋭工場「ID1」も、広島と同じように開発と量産を同ロケーションに置くモデルを採用している。広島で確立された運営思想が、世界規模の製造戦略をサポートしているのである。

爆発的普及が突き付ける電力制約と次世代プロセスの役割

AIの普及スピードは、過去のどのテクノロジーとも比較にならない。

「PCが1000万人に普及するのに約15年、インターネットは4〜10年かかりましたが、AI(ChatGPTユーザー数)はわずか40日程度で到達したという驚異的なデータもあります」(野坂氏)

この爆発的な拡大は、データセンターの処理能力だけでなく、電力供給という社会インフラ全体に影響を及ぼす。IEA(国際エネルギー機関)によると、世界のデータセンターの電力消費量は24年に415テラワット時(TWh)と、世界全体の電力需要の1.5%を占めた。AIの急速な普及を背景に、30年には945TWhへと倍以上に増加する見通しである。これは近年の日本の年間総電力消費量を上回る規模だ。

「次世代ノードへの移行は、単なる性能向上だけではなく、処理速度と電力効率を両立させ、AIの進化を持続可能なものにすることが目的です」

広島工場で展開される最先端プロセス「1γ(ワンガンマ)」は、この難題への解となる。チップサイズをシュリンク(微細化)することで、同じ処理をより少ない電力で実行できるようになるのだ。

AIの爆発的普及を支えるマイクロンの「広島モデル」。日米半導体エコシステムの橋渡し役が明かす次世代戦略2025年12月に開催された「SEMICON Japan 2025」の会場で展示されていたマイクロンの1γ(ワンガンマ)DRAM

また、HBM3Eにおいて、マイクロンの製品は競合他社と比較して約30%の消費電力優位性を持つという。同じスピードであれば、より少ない電力で計算を処理できる。「電力効率」は、AIの拡大を持続可能なものにするための必須条件であり、今後の競争軸となる。

日米の緊密な連携を通じて、日本の半導体エコシステムの成長を推進

マイクロンが日本に投資し続ける理由は、単に生産能力を確保するためだけではない。日本のサプライヤーが持つ圧倒的な技術力が背景にあると野坂氏は語る。

「現在、広島工場で使っている材料の約8割は、日本のサプライヤーから調達しています。レジスト、薬液、ガスなど、日本企業の品質とパフォーマンスは非常に高い」

最先端製品の量産拠点が日本に存在し、国内サプライヤーと密接に連携することは、サプライチェーンの安定だけでなく、経済安全保障の観点からも極めて重い意味を持つ。「マイクロンは、米国と日本の技術・産業をつなぐ『橋渡し』のような位置付けです」。テクノロジーで世界一を維持し続けることが、両国の優位性につながるという認識だ。

もっとも、こうした技術基盤やサプライチェーンは、それ自体で完結するものではない。最先端の設備や材料がそろっていても、それを使いこなし進化させ続ける人材がいなければ、競争力は維持できない。マイクロンが日本での投資と同時に、人材育成や組織づくりを重視する理由も、そこにある。

さらに、AIの進化とAIチップ製造をより持続可能にしていく上で重要な鍵となるのが、産業活動やデータセンター向けに利用可能なカーボンフリー電力の供給を拡大することである。この点において、日本は原子力、風力、太陽光といったカーボンフリーの選択肢を導入してきたことで、周辺国よりも先行している。しかし、AIの爆発的な成長に対応するためには、さらなるカーボンフリー電力の容量拡大や、代替エネルギーの確保が不可欠だ。

人への投資が組織の価値を高め次の成長を導く

技術と設備を動かすのは「人」である。野坂氏は、日本の理系人材不足に強い危機感を抱いている。「理系離れが進む中で、若い世代に興味を持ってもらう必要があります」。

日米の大学と連携した「UPWARDS for the Future」(半導体の未来に向けた人材育成と研究開発のための日米大学パートナーシップ)を通じて、これまでに約1万人の学生にアプローチした。また、女子学生への啓蒙活動も積極的に行ってきた結果、広島工場では海外出身者を含む多様な人材が集まり、組織構成にも変化が生まれている。

25年、広島工場に入社した約300人の新入社員のうち、半数以上が海外出身者だった。文化や価値観の異なる人材が協働するため、祈祷室、ハラル対応の食事など、ハード・ソフト両面での環境整備が進められている。

「従来の日本の製造業に見られたトップダウン主義や画一的な考えだけでは、AI時代の激変には対応できません」。多様な背景を持つメンバーが自ら考え、失敗を次の成功につなげる。この「変革の文化」こそが、マイクロンの競争力の源泉となっている。

AIの爆発的普及を支えるマイクロンの「広島モデル」。日米半導体エコシステムの橋渡し役が明かす次世代戦略マイクロンメモリ ジャパン
代表取締役
野坂 耕太
2004年にエルピーダでプロセス・インテグレーション・エンジニアとしてキャリアを開始し、13年にマイクロンへプリンシパル・エンジニアとして入社。16年には1Y DRAMの技術移管をけん引、19年にアドバンストテクノロジー部門ダイレクターとして1Z DRAM移管を主導。20年にシニアダイレクターに昇進し、ウェハ投入計画や新製品導入に注力しながら1β DRAMの成功に貢献。25年に現職に就任。

野坂氏のリーダーシップの根底にあるのは、「人の幸せが組織の価値を向上させる」という信念だ。「いくら個人が成功しても、周りの人々が幸せでなければ本当の満足は得られません」。マイクロンの組織がフラットでモチベーションが高いゆえんである。

AIスーパーサイクルの中心にあるマイクロンの広島拠点は、単なる製造拠点を超えた戦略的価値を持っている。最先端技術の開発、効率的な量産体制、強固なサプライチェーン、そして多様な人材育成――これらが相互に作用し合い、持続可能な競争優位性を生み出している。

電力効率という新たな課題に直面する中、マイクロンの包括的なアプローチは、AI技術の健全な発展を支える重要な基盤となっている。野坂氏のリーダーシップの下、広島拠点はマイクロンのグローバル戦略の要として、AI時代の新たな可能性を切り開いていくことだろう。

●問い合わせ先
マイクロンメモリ ジャパン株式会社
https://jp.micron.com/in-japan