夏の電力需要増を見越し、太陽光発電システムを導入する家庭が増えている。とはいえ、自宅の立地環境に合った装置を導入しなければ高額の投資もムダになってしまう。一般にいわれる「変換効率」が唯一の選択基準なのか。注目される次世代方式の太陽光発電システムはどこが新しいのか。太陽光発電システムの最新事情を専門家に聞いた。

 東日本大震災による電力不足を踏まえ、電力需要がさらに高まる夏場を前に太陽光発電システムを導入する家庭が増えている。住宅用太陽光発電システムに関して国の補助金手続き業務を請け負う太陽光発電普及拡大センター(J-PEC)の発表によれば、今年4月1日から5月31日までの累計補助金申し込み受付件数は3万521件。昨年同時期の申し込み受付件数の1万6097件と比較すれば、今いかに太陽光発電が注目されているかが推測できる。

 とはいえ、太陽光発電システムは200万円以上が相場といわれる高価な買い物であり、これに設置費なども加算されるわけで「設置してみたけど効果が出なかった」ではすまされない。購入を決める前に“お試し”ができるわけでもなく、一般の消費者が数あるメーカーの製品のなかから自宅の立地条件に合う製品を選ぶことは難しい。

「変換効率」だけで選んでよいのか

菱田剛志 (ひしだ・たけし) 1962年生まれ。2004年に「太陽光発電システム 見積工場」の運営責任者に就任、05年に代表取締役。09年、社団法人太陽光発電販売施工協会副会長。太陽光発電に関する導入コンサルティングや情報発信に取り組む。

 こうしたニーズの高まりのなか、専門家の立場から「太陽光発電システムの選択基準は意外に知られていない」と語るのは、太陽光発電システムの新規導入や更新を検討している個人や企業、自治体などにコンサルティングを行う「太陽光発電システム  見積工場」の菱田剛志代表だ。

 太陽光発電システムを購入する際、製品の性能比較指標として一般的に用いられているのは「変換効率」という指標だ。この数値に居住地の環境条件(日照時間や屋根の面積、角度など)を各種変数として掛け合わせ予測発電量を「シミュレーション」する。

 つまり、変換効率とは太陽光パネルが受けたエネルギーのうちどれだけ電気エネルギーに変換できるかの割合をいい、各メーカーが製品ごとに発表している。理論的には変換効率が高いほどエネルギーロスが少なく、効率よく発電ができるというわけだ。

 これについて菱田氏は次のように指摘する。

「変換効率は確かに性能指標の一つです。しかし、変換効率によるシミュレーションは、設置後の現実の発電量と思わぬズレが生じるという問題がある。これは、あくまで理論値であり、実際の設置条件によっては大きく変わる可能性があります。また、一般的にメーカーが発電シミュレーションを保守的に見積もる傾向もあると考えられます」

 メーカーが自社製品の発電シミュレーションを低めに見積もる結果、現実には想定を上回る発電量が得られることも珍しくなく、逆に影が差した場合などは、控えめな発電シミュレーションよりさらに低い結果が出ることもあって、予測値とのあいだに乖離(かいり)が生じやすいという。

「気候の変動や日本の住宅事情を考えると、理論上まったく同じ設置条件は数少ないと思います」(菱田氏)