日本銀行による長短金利操作が始まってから半年が経過した。10年債利回りが一時的に上限と目された0.1%を上回るなどの場面があったものの、この半年間総じて長期金利はコントロールされている。

 ただ、原油価格上昇や円安などによって、わが国の消費者物価が上昇する場合、名目長期金利が0%近傍でコントロールされていても実質金利が低下する。つまり、日銀の政策に変更がなくとも緩和効果が強まるため、その場合は10年債利回りの目標を引き上げるべきだとの議論も高まりやすい。

 つまり、外部環境の如何によっては不安定化しかねないのが日本の長期金利なのだが、4月以降、低下傾向を強めている。

 ドル円市場が米日の金利差に連動しやすいことはよく知られているが、いわゆるトランプ相場においても米日10年債利回り差とドル円は強く連動している格好だ。

 ただ、日本の10年債利回りが0%近くでコントロールされていることを考えれば、米国10年債利回りが上がるほど円安が進みやすい構図ともいえる。米国10年債利回りがピークを付けた2016年12月にドル円が120円をうかがったことからもそれは分かるだろう。

 翻って、ここ1カ月ほどは米国10年債利回りの低下傾向が強まっている。オバマケア修正法案撤回など、議会共和党保守派がトランプ大統領に非協力的な姿勢を示したことの影響が大きい。

 今後、税制改革などにおいて保守派が強硬に財政健全化を主張すれば、米国経済への財政刺激効果は限られ、米国のインフレ率上昇も限定的なものとなりかねない。

 FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げの必要性も低下することになる。そのような中、トランプ大統領が「低金利が好ましい」旨の発言を行ったことで10年債利回りは2.3%の節目を下回ってしまった。

 日本の10年債利回りが0%近くでコントロールされる状況で米国10年債利回りがさらに下がれば、米日10年債利回り差は急縮小する可能性が高く、急激な円高が進みやすい。日銀が長短金利操作を導入して1カ月半後に米大統領選挙でトランプ氏が勝利し、トランプ相場が始まった。つまり、日銀の現行政策の中では急激な円高圧力は未経験ということになる。

 急激な円高が企業業績悪化や輸入物価下落を介し、日本の消費者物価の押し下げ要因として強く意識されれば、一転して10年債利回り目標の引き下げの議論にまで向かうことも想定される。あらためて長短金利操作という政策が外部環境の変化に弱いことが実感される中、日本の10年債利回りがマイナス0.1%に向けて低下していく可能性もあろう。