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「免責の解釈は十分ある」──。
東京電力の株主総会は、炎天下のなか昨年の3倍となる9309人の株主が集まり、会場の廊下まで溢れ返った。総会は怒号とヤジが飛び交うなか6時間9分と過去最長に及んだ。
とりわけ株主の意見として目立ったのは、福島第1原子力発電所の事故の損害について「免責」を求める声だった。
株主が免責を求めるのは無理もない。もし免責となれば、東電の経営は息を吹き返し、7分の1まで下がった株価も上昇するのだ。
ある株主が賠償責任について質問すると、勝俣恒久会長は「(免責条項の適用は)関東大震災の3倍という話もあるが今回の地震エネルギーはその44倍。免責の解釈も十分可能だ」と言い放った。
じつは東電が表立って免責に触れることは、これまでほとんどなかった。勝俣会長の発言は重い。
政府は、原子力損害賠償法に基づき、東電が「無限責任」を負うものと考えている。法の趣旨は、被害者の保護と原子力の産業育成で事業者の救済をうたってはいない。そのため、東電が一義的に賠償金を払うものとの立場だ。
にもかかわらず、なぜ免責とされうるのか。
問題は法律にあいまいな条項があることだ。それが第3条第1項ただし書きにある「異常に巨大な天災地変によって原子力損害が生じたときは免責」という内容だ。
別の株主は「東電の年度報告書を読めば免責だ」と指摘した。確かに、報告書では事故原因が「史上稀に見る巨大な地震や津波の影響」と記してある。「史上稀」であれば「異常に巨大」だろうというわけだ。
現在、東電はこの条項で国と争ってはいない。もし免責されれば、賠償責任を負う主体がいなくなる。避難者らに賠償金が支払われなくなる恐れもあり批判は免れない。
免責の認定には時間がかかる。国を相手取り裁判を起こせば東電の経営も悪化する。結果として「債務超過にさせない」といういびつな賠償の枠組みを政府に認めさせた。
しかし、勝俣会長の発言は、免責条項の適用を諦めるどころか、巻き返しを図る狙いすらうかがえる。
もともと、東電は政府の賠償枠組みを定めるうえで、金額の上限を設定するように求めていた。法の無限責任とは異なる「有限責任」という立場を主張したが、政府に突き返されたのだ。その経営陣は総会後もほぼ変わりない。引責辞任は清水正孝前社長だけだ。
政権の先行きは不透明だ。「東電憎し」としてきた官邸が倒れれば、東電擁護派が巻き返すことも予想される。現にその動きは与野党から出ている。
事故の収束にメドがつく頃には反転攻勢が予想される。今はおとなしくして、一気に声を上げるのだろう。まさに東電の“死んだふり”である。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)