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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

日本の「現場力」は誇るべきものだが、
批判を許さない「現場絶対視」には反対だ

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第13回】 2011年7月6日
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 東日本大震災の対応で、「現場」を率いる組織のリーダーが厳しく批判されている。菅内閣は、霞が関の官僚機構をうまく活用できず、福島第一原発の事故処理をめぐる混乱や被災地の復旧の遅れを招き、厳しい批判に晒された。また、東電は原発事故で後手に回り、原発の状況を伝える情報開示が二転三転し、信頼性を完全に失ってしまった。

 その一方で、「現場力」に注目が集まっている。危機的な「現場」で、助け合い、譲り合い、励まし合う被災者、その被災者を救うために集まり汗を流すボランティア、困難な状況を打開するために懸命の努力を続ける企業など、「現場」での威厳ある日本人の姿を世界中が称賛している。だが、日本の強さが「現場力」なのは確かだが、「現場力」を絶対視して、批判を許さないような、現在の風潮には違和感がある。

グローバリゼーションを
拒絶した「現場」

 90年代、筆者は商社の鉄鋼部門に勤務していた。当時、グローバリゼーションに対応するため、日本企業の本社購買部では材料の海外調達を始めていた。筆者の部署にも、日本企業から欧州の製鉄会社の鋼材を輸入してほしいという注文が届いた。輸入品は無事に届いたが、工場という「現場」が、「錆び」「曲がり」「割れ」を訴えてクレームになった。

 だが、製鉄会社は、これらが国際規格の許容範囲内だとして、クレームを受け付けなかった。日本企業の本社購買部は、製鉄会社の主張を理解したが、「現場」は国際規格の基準に合格しても、この材料は使えないと訴えた。結局、本社購買部は「現場」の説得を断念し、日本の製鉄会社からすべての鋼材を買い直した。これは当時、さまざまなビジネスの場面でよく起きたことだ。

 90年代、日本企業の「本社」は多国籍企業間の大競争への対応に苦慮し、橋本・小泉内閣は日本企業の競争力強化のため「構造改革」に取り組んだ。だが、それは中小零細企業の経営を追い詰め、「ものづくりの現場」を直撃した。「現場」から構造改革に反対し、「日本のものづくりを守れ!」という声が上がると、政治家は構造改革から「現場」を救済する、大規模な財政出動を行わざるを得なかった。「現場」を絶対視する空気が、世界の潮流を理解した「本社」の望んだ「構造改革」を頓挫させ、財政赤字を急拡大させた。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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