意匠とはデザインのこと。モビリティーからUI(ユーザーインターフェース)、建築物まで、私たちの身の回りにあるさまざまな「デザイン」を知的財産として保護するのが意匠権だ。2020年4月に改正意匠法が施行され、それまでスマートフォンなどの物品の一部として保護されていたUIなどの画像デザインが、それ単体でも保護されるようになった。改正前からアプリなどのUIを積極的に意匠登録しているLINEヤフー。意匠登録をしてUIを権利化する大きな理由は?そこにどんなビジネスメリットがあるのか。さまざまな意匠登録への取り組みについて、特許庁とLINEヤフーの担当者が語り合った様子を、2回に分けてお届けする。(以下本文中敬称略)
LINEヤフー Design Executive Center UXD本部 町田宏司 本部長
LINEヤフー 法務統括本部第二事業法務本部知的財産部 高部 博 部長
特許庁 審査第一部 環境・基盤意匠 神谷由紀 審査監理官
特許庁 審査第一部 情報・交通意匠 伊藤翔子 審査官
UIデザインのスタンダードを作っているという自負
特許庁 審査第一部 環境・基盤意匠 神谷由紀 審査監理官(右)
町田 特許庁さんから意匠法改正前に「UIを意匠権で守りたいですか」と聞かれました。そのときは、「どちらでもいいです」と答えました(笑)。インターネットの世界にはオープンとシェアという考え方があり、僕らデザイナーには意匠の権利を主張して誰にも使わせないという気持ちはなく、むしろ使ってほしいと思っているからです。
神谷 その「どちらでもいいです」とお答えになった背景についてもう少し詳しく教えてください。
町田 当時のヤフー(現LINEヤフー)が運営していたポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のトップページを見ると、上段に「Yahoo! JAPAN」のロゴがあり、その下に検索窓があり、トピックス見出しのリストと続く。これを意匠権で守りたいかという話になって、「どちらでもいいです」と答えたのです。僕たちがUIデザインのスタンダードを作っているという意識でいますから、使ってもらって構わない。ただそれはデザインの現場目線の話であって、会社の知財に対するスタンスとは違うかもしれません。
高部 知的財産(知財)部としては、意匠を守ることをデザイナーがどう捉えるかが一番重要だと考えています。「むしろ使ってほしい」という想いは、インターネットの企業という文化からも、よく分かっています。同じ想いです。ただ、弊社のように多様なサービスを提供している会社ですと、それなりの配慮をしなければなりません。どういうことかというと、権利を独占するという意図ではないのですが、一つは、他者が保有する権利によってLINEヤフーらしいUIやデザインを使えなくなることは避けたい、ということ。もう一つは、悪意を持って使われてしまうリスクを避けたい、つまり、ユーザーの皆さまにとっても弊社にとっても害となるような悪意を持ったサイトのようなものが作られた場合は、弊社が保有している意匠権などの知的財産権を使って対応していく必要があると考えています。
次ページからは、「Yahoo!乗換案内」や「Yahoo!天気」アプリに秘められたUIのナレッジについて迫る。