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反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
【第1回】 2017年6月22日
著者・コラム紹介バックナンバー
ナシーム・ニコラス・タレブ,望月 衛,千葉敏生

『ブラック・スワン』のタレブ最高傑作! 不確実性を利益に変える劇薬「反脆弱性」とは?

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リーマン・ショック、アラブの春、地震と津波、そして原発事故……。私たちは今、昨日までは「ありえない」と言われたことが、今日、現実のものとなる不確実な世界で生きることを強いられている。ではどうすれば、ランダムで、予測不能で、不透明で、物事を完璧に理解できない状況でも、不確実性を味方につけて、したたかに生き延びていくことができるのだろうか――。
サブプライムローンに端を発する金融危機を喝破し、ベストセラー『ブラック・スワン』で全世界に衝撃を与えた「知の巨人」タレブが、その「答え」を見つけた最高傑作『反脆弱性』から、「プロローグ」を順次公開していこう。

I.風を愛するには

 風はろうそくの火を消すが、炎を燃え上がらせる。

 それは、ランダム性、不確実性、無秩序も同じだ。それらから隠れるのではなく、利用しなければいけない。炎になって、風が吹くことを期待するのだ。このたとえは、ランダム性や不確実性に対する私の前向きな考え方をずばり言い表わしている。

 不確実性を生き抜くだけじゃいけない。乗り切るだけでもいけない。不確実性を生き抜き、ローマ時代の積極的なストア哲学者たちのように、不確実性を自分のものにするべきなのだ。その目的は、見えないもの、不透明なもの、説明不能なものを手なずけ、支配し、さらには征服することだ。

 でも、どうやって?

II.反脆さ

 衝撃を利益に変えるものがある。そういうものは、変動性、ランダム性、無秩序、ストレスにさらされると成長・繁栄する。そして冒険、リスク、不確実性を愛する。こういう現象はちまたにあふれているというのに、「脆い」のちょうど逆に当たる単語はない。本書ではそれを「反脆(はんもろ)い」または「反脆弱(はんぜいじゃく)」(antifragile)と形容しよう。

 反脆さは耐久力や頑健さを超越する。耐久力のあるものは、衝撃に耐え、現状をキープする。だが、反脆いものは衝撃を糧にする。この性質は、進化、文化、思想、革命、政治体制、技術的イノベーション、文化的・経済的な繁栄、企業の生存、美味しいレシピ(コニャックを一滴だけ垂らしたチキン・スープやタルタル・ステーキなど)、都市の隆盛、社会、法体系、赤道の熱帯雨林、菌耐性などなど、時とともに変化しつづけてきたどんなものにも当てはまる。地球上の種のひとつとしての人間の存在でさえ同じだ。そして、人間の身体のような生きているもの、有機的なもの、複合的なものと、机の上のホッチキスのような無機的なものとの違いは、反脆さがあるかどうかなのだ。

 反脆いものはランダム性や不確実性を好む。つまり、この点が重要なのだが、反脆いものはある種の間違いさえも歓迎するのだ。反脆さには独特の性質がある。反脆さがあれば、私たちは未知に対処し、物事を理解しなくても行動することができる。しかも適切に。いや、もっと言おう。反脆さがあれば、人は考えるより行動するほうがずっと得意になる。ずば抜けて頭はよいけれど脆い人間と、バカだけれど反脆い人間、どちらになりたいかと訊かれたら、私はいつだって後者を選ぶ。

 一定のストレスや変動性を好むものは、身の回りにいくらでも見つかる。経済システム、人間の身体や精神、それから栄養だってそうだ(糖尿病のような現代病の多くは、食事のランダム性やたまの絶食というストレスがないことと関連があるようだ)。また、反脆い金融商品なんてものまである。そういう商品は、市場のボラティリティ(変動性)で利益が出るよう意図的に設計されている。

 反脆さを理解することは、脆さをもっと深く理解することに通じている。病気を減らさなければ健康にはなれないし、まず損失を減らさなければ金持ちにはなれない。それと同じで、反脆さと脆さは同じスペクトル上に並んでいるわけだ。

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ナシーム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)

文筆家、トレーダー、大学教授および研究者という三つの顔を持つ、現代の急進的な哲学者。生涯を通じて、運、不確実性、確率、知識の問題に身を捧げており、主な研究テーマは「不透明性のもとでの意思決定」、つまり人間にとって理解不能な世界で生きていくための地図やルールについて考えること。レバノンでギリシア正教の一家に生まれ、ウォートン・スクールでMBAを、パリ大学で博士号を取得。現在、ニューヨーク大学タンドン・スクール・オブ・エンジニアリングでリスク工学の教授を務める。著書『まぐれ』および『ブラック・スワン』(ともにダイヤモンド社)は33の言語で出版されたベストセラーである。

望月 衛(もちづき・まもる)

大和投資信託株式会社リスクマネジメント部。京都大学経済学部卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。CFA、CIIA。投資信託等のリスク管理やパフォーマンス評価に従事。訳書に『ヤバい経済学』『ヤバすぎる経済学』『その問題、経済学で解決できます。』『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』(以上、東洋経済新報社)、『ブラック・スワン』『まぐれ』『経済は「予想外のつながり」で動く』(以上、ダイヤモンド社)、『ヘッジホッグ』『ウォール街のイカロス』(ともに日本経済新聞出版社)等がある。

千葉敏生(ちば・としお)

翻訳家。1979年神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。訳書に『情報と秩序』『デザイン思考が世界を変える』『スイッチ!』『決定力!』(以上、早川書房)、『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)、『ウソはバレる』(ダイヤモンド社)等がある。


反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

リーマン・ショック、アラブの春、地震と津波、そして原発事故……。
昨日までは「ありえない」「絶対ない」と言われた事象が今日、現実のものとなる不確実な世界。

ではどうすれば、ビジネスから、政治、医療、生活全般まで、ランダムで、予測不能で、不透明で、物事を完璧に理解できない状況でも、不確実性を味方につけ、したたかに生き延びていくことができるのだろう。

サブプライムローンに端を発する金融危機を喝破し、ベストセラー『ブラック・スワン』で全世界に衝撃を与えてから10年。
世界最高の哲人タレブがついに見つけた「答え」、それこそが、「反脆弱性(はんぜいじゃくせい)」だ。

ついに刊行された『反脆弱性』より、タレブの許可を得て「プロローグ」を抜粋して公開しよう。

「反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」

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