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反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
【第5回】 2017年7月3日
著者・コラム紹介バックナンバー
ナシーム・ニコラス・タレブ,望月 衛,千葉敏生

なぜタレブは『反脆弱性』を書いたのか? 唯一無二の本誕生秘話

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リーマン・ショック、アラブの春、地震と津波、そして原発事故……。私たちは今、昨日までは「ありえない」と言われたことが、今日、現実のものとなる不確実な世界で生きることを強いられている。ではどうすれば、ランダムで、予測不能で、不透明で、物事を完璧に理解できない状況でも、不確実性を味方につけて、したたかに生き延びていくことができるのだろうか――。
サブプライムローンに端を発する金融危機を喝破し、ベストセラー『ブラック・スワン』で全世界に衝撃を与えた「知の巨人」タレブが、その「答え」を見つけた最高傑作『反脆弱性』から、「プロローグ」を順次公開していく連載第5回。自ら集大成と語る『反脆弱性』で、タレブは何を伝えたかったのか。その誕生秘話に迫る。

IV.本書

 反脆さという概念に行き着くまでの旅は、いってみれば非線形的だった。

 ある日、私は突然、それまで厳密な定義のなかった「脆さ」という概念を、「変動性を好まないもの」として表現できることに気づいた。そして、「変動性を好まないもの」はランダム性、不確実性、無秩序、間違い、ストレスなどを好まない。脆いものを思い浮かべてほしい。たとえば、居間にあるガラスの写真立て、テレビ、食器棚の磁器など、何でもいい。「脆い」と形容されるものは、安定的で、静かで、秩序的で、予測可能な環境に置いておきたいと思うものばかりだ。脆いものというのは、地震の発生やおてんばな姪の訪問で利益を得ることはまずない。さらに、変動性を好まないものはみんな、ストレス、害、渾沌、事件、無秩序、“予測不能”な影響、不確実性、そしていちばん大事なことに、時の経過を嫌うということだ。

 そして、反脆さは、この脆さの明確な定義からいわば自然と生まれる。反脆さは変動性などを好む。時の経過も歓迎だ。それから、非線形性と強力で有益な関係を持つ。非線形的な反応を示すものはみんな、一定のランダム性の根源に対して、脆いか反脆いかのどちらかなのだ。

 何より不思議なのは、脆いものはすべて変動性を嫌う(およびその逆)という当たり前の性質が、科学や哲学の議論からすっぽりと抜け落ちてしまっていることだ。すっぽりとだ。私は成人してからの20年間、「変動性(ボラティリティ)に対する物事の感応度を調べる」という、摩訶不思議な仕事を生業(なりわい)として生きてきた。おかしな生業だというのはわかっている。これについてはあとで説明する。この仕事で、私は「変動性を好む」ものと「変動性を嫌う」ものを見極めることに神経をすり減らしてきた。だから、私がしなくちゃならないのは、この考えを金融の分野から実世界へと一般化することだけだった。政治科学、医療、夕食の計画といった色々な分野において、不確実性のもとで意思決定するにはどうすればよいかを考えるわけだ(*)

 そして、変動性を相手にするこの摩訶不思議な職業には、2種類の人種がいる。ひとつ目は、未来の事象を研究して本や論文を書く学者、レポート・ライター、評論家だ。ふたつ目は、未来の事象を研究するのではなく、変動性に対する物事の反応の仕方を理解しようとする実践家だ(だが、実践家は実践するのに手一杯で、本、記事、論文、スピーチ、数式、理論を作っているヒマなんてないので、崇高なる学者様方からは尊敬されない)。ふたつの違いは重要だ。先ほども話したとおり、巨大なブラック・スワンのような有害な事象を予測しようとするよりも、何かが変動性で害をこうむるかどうか、つまり脆いかどうかを理解するほうが、ずっと簡単だ。ところが、この点を自然に会得しているのは、たいてい実践家(物事を実行する人)だけなのだ。

* 「変動性(ボラティリティ)を嫌う」を専門用語でいえば、「ショート・ベガ」、または「ショート・ガンマ」となる。これは「変動性が上昇すると損害をこうむる」という意味。その逆で利益になる場合は、「ロング・ベガ」、または「ロング・ガンマ」という。本書の残りの部分では、「ショート」、または「ロング」と言ったときには、それぞれ負および正のエクスポージャーを指す。言っておくが、私は変動性を予測できるなんて思ったことはいちどもない。私は変動性に対する物事の反応の仕方だけに着目してきたのだ。

(むしろ幸せな)無秩序一家

 専門的なコメントをひとつ。さっきから繰り返しているように、脆さや反脆さとは、変動性に関連する何かに対するエクスポージャー(さらされている状態)から、利得や損失を受ける可能性があることを意味する。何かとは? 簡単にいえば、無秩序の親戚に当たるものだ。

 無秩序の親戚(仲間)とは、次のとおり。(1)不確実性、(2)変化、(3)不十分で不完全な知識、(4)偶然、(5)渾沌、(6)変動性、(7)無秩序、(8)エントロピー、(9)時(とき)、(10)未知のもの、(11)ランダム性、(12)混乱、(13)ストレス、(14)間違い、(15)結果のばらつき、(16)似非(えせ)知識。

 うまいことに、不確実性、無秩序、未知のものは、その効果という点ではまったく同等なのだ。どれも、反脆いシステムにとっては(ある程度までは)利益になり、脆いシステムにとってはたいてい有害になる。でも、これらは大学の別々の建物で教えられているし、人生で本当のリスクなんて冒した経験もない(もっといえば本当の人生なんて生きたこともない)似非哲学者は、「これらは明らかに別物だ」なんて平気で言ったりする。

 項目(9)に時(とき)が入っているのはどうして? 時は機能的には変動性と似ている。時がたてばたつほど、色々な事象が起こり、無秩序は大きくなる。あなたの受ける害が限られていて、あなたが小さな間違いに対して反脆いとしよう。すると、時はやがて、あなたにとって利益になるタイプの間違い、いわば逆間違いをもたらしてくれる。これこそ、あなたの祖母が「経験」と呼んでいるものだ。一方、脆いものは時とともに壊れゆく。

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ナシーム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)

文筆家、トレーダー、大学教授および研究者という三つの顔を持つ、現代の急進的な哲学者。生涯を通じて、運、不確実性、確率、知識の問題に身を捧げており、主な研究テーマは「不透明性のもとでの意思決定」、つまり人間にとって理解不能な世界で生きていくための地図やルールについて考えること。レバノンでギリシア正教の一家に生まれ、ウォートン・スクールでMBAを、パリ大学で博士号を取得。現在、ニューヨーク大学タンドン・スクール・オブ・エンジニアリングでリスク工学の教授を務める。著書『まぐれ』および『ブラック・スワン』(ともにダイヤモンド社)は33の言語で出版されたベストセラーである。

望月 衛(もちづき・まもる)

大和投資信託株式会社リスクマネジメント部。京都大学経済学部卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。CFA、CIIA。投資信託等のリスク管理やパフォーマンス評価に従事。訳書に『ヤバい経済学』『ヤバすぎる経済学』『その問題、経済学で解決できます。』『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』(以上、東洋経済新報社)、『ブラック・スワン』『まぐれ』『経済は「予想外のつながり」で動く』(以上、ダイヤモンド社)、『ヘッジホッグ』『ウォール街のイカロス』(ともに日本経済新聞出版社)等がある。

千葉敏生(ちば・としお)

翻訳家。1979年神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。訳書に『情報と秩序』『デザイン思考が世界を変える』『スイッチ!』『決定力!』(以上、早川書房)、『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)、『ウソはバレる』(ダイヤモンド社)等がある。


反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

リーマン・ショック、アラブの春、地震と津波、そして原発事故……。
昨日までは「ありえない」「絶対ない」と言われた事象が今日、現実のものとなる不確実な世界。

ではどうすれば、ビジネスから、政治、医療、生活全般まで、ランダムで、予測不能で、不透明で、物事を完璧に理解できない状況でも、不確実性を味方につけ、したたかに生き延びていくことができるのだろう。

サブプライムローンに端を発する金融危機を喝破し、ベストセラー『ブラック・スワン』で全世界に衝撃を与えてから10年。
世界最高の哲人タレブがついに見つけた「答え」、それこそが、「反脆弱性(はんぜいじゃくせい)」だ。

ついに刊行された『反脆弱性』より、タレブの許可を得て「プロローグ」を抜粋して公開しよう。

「反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」

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