1939年にBBCに集まった専門家たちはAの基本周波数を110ヘルツではなく、102ヘルツにすることもできたが、そうなっていたら今我々が聴く音楽はすべて少し低くなっていたわけだ。

 ちなみに、現在我々が耳にするモーツァルトは、半音高い。しかし、われわれが彼の音楽に対して抱く感情がそれで変わるかと言えば、それは違う。感情はすべての人間に共通しているので、周波数は関係ない。

 同様に、最初に使うキー(長短の調)次第で、違った感情が生まれるという考えも間違いだ。例えば、スティービー・ワンダーの曲で「I just called to say I love you」という歌詞を繰り返すところがあるが、途中で1音上げるとより気持ちが明るくなる。しかし、どの調から始めても途中で1音上げると同じ効果がある。最初の調は問題ではない。

――つまり、多くの作曲家が誤解をしているかもしれないということか。

 そうだ。ベートーベンをはじめとして多くの作曲家は、特定のキーは独特の感情を引き起こすと思い込んでいる。だから、悲しい曲を作るときは、その特定のキーを使い、ロマンチックな曲のときは別の特定のキーを使った。他の人もそれに従った。

 行進曲用のキー、ダンス用のキーという感じで作曲家が決めていったので、後世の作曲家もそれに従っただけだ。実際はどのキーからも始めることができ、あとはそれを上げたり下げたりするだけでいい。

――絶対音感については、小さい時に身につけるしかないのか。

 そう思う。空手でもそうだが、6歳になる前に始めると、非常にうまくなる。音の差を覚えるだけではなく、音そのものを覚えてしまうからだ。