不安は瞬く間に伝播する。欧米債務問題を引き金としたリスク資産からの逃避の動きは世界を駆け巡り、同時株安を引き起こした。市場はその後、落ち着きを取り戻したかに見えるが、先行き不安の根は深い。欧米、新興国それぞれが構造問題とジレンマを抱え、抜け出すのは容易ではない。世界経済は複合危機に陥っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小栗正嗣、河野拓郎、竹田孝洋、前田 剛)

8月前半、米国債の格下げを端緒に急落した株式市場は、その後1日の値動きが4~5%という異常な乱高下を演じた。いったい何が起きたのか。変調の真の要因は何か。

世界経済の危うい実態が露呈
ヘッジファンドが混乱を増幅

「これは来る」

 7月最終週、野村證券外国為替部は、ドル安方向でのポジション調整を行った。米国の格下げに備えた“リスクオフ”である。

 8月5日午後8時15分(日本時間6日午前9時15分)、スタンダード&プアーズ(S&P)は、史上初の米国債格下げに踏み切った。7日の日曜日、野村證券は世界各国の為替チーム担当者で緊急電話会議を行った。「為替ポジションを持つ機関投資家などの顧客から注文が殺到する可能性がある。万全の態勢を取る」。

 週明けの8日午前3時、同社は通常の3倍の人員を置いて、マーケットのオープンを待った。ところが、意外にも為替市場は若干のドル安にとどまり、注文もさほどなかった。

 この日のリスクオフの主戦場は、ドルではなく株式市場だった。ニューヨークダウは635ドル、率にして5.5%下落した。世界の主要株式市場もこれにつられ、2~8%の下落に見舞われた。日経平均は8~9日の2日間で3.8%下落、3月17日以来の9000円割れとなった。