東日本大震災の発生による影響で、内陸部の断層における直下型地震の発生確率が高まったとされる昨今では、この災害リスクはさらに上昇したものと考えられ、首都圏においても、これまでの被害想定や地震対策についても、抜本的な見直しが必要となった(図表2参照)。

内閣府資料図表2 首都直下型地震の被害予測
出典:内閣府資料

 東日本大震災では首都圏でもさまざまな「過去にない被害」が発生した。

 大規模な「長周期地震動」が発生した結果、これだけの遠隔地であるにもかかわらず、過去最大の「液状化」地域が発生し、人的被害は少なかったものの、多くの家屋が甚大な被害を受けた。

 また都市部ではその「人口集中」がリスクとなり、大量の帰宅難民や交通渋滞が災害発生時の「消火・救助活動」に最大の壁となることも判明した。

 人は大きな不安を感じるとそのリスクを軽減しようと物資の「買い占め」に走る。不要不急のものまで買い占められ、本当に必要なところで手に入らない状況になるということも今回分かった教訓であった。

 首都圏ではその後、原発事故を受けて、電力不足による「停電の不安」にも襲われた。電気を失った都会生活は非常に脆ぜい弱じゃくである。大規模停電が起きれば、街から明かりが消え、オートロックは解除され、セキュリティシステムはいっせいに停止する。「無法地帯」になった街ではなにが起きてもおかしくないのが現実だ。犯罪者はこんな機会を見逃さないはずだ。

 今後は企業の立地においても、地域に液状化の可能性はないか、建造物に十分な耐震性能があるか否か。火災発生の場合に地域に大規模な延焼が発生する可能性はないか。徒歩数分以内に、広域避難場所があるか否かなどが、事業継続を図る上でも重要な指針になることは間違いない。

 不動産業界の法人リース部門では、新規の事業所移転案件が震災後に活発になっているという。それも、これまでのコストダウンのため、という理由ではなく、より耐震性能の優れた、災害に強い最新物件が人気という。非常電源のある建物にも問い合わせが多いようだ。

 こうした地域特有の「被災リスク」を把握したうえで災害対策・避難想定を行っておけば個々のリスクは大幅に減少する。ただ、最も困難なことは、その防災意識を持ち続けること。

 人は忘れやすく、記憶は移ろいやすい。「あのとき、準備しておけば」ということにならないように。