人間がAIに負けないために必要なのは「国語力」だった

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。

なぜ読解力のないAIに人間の高校生が負けるのか

「東ロボくん」を覚えているだろうか。国立情報学研究所(NII)主導のプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」で東京大学の入試にチャレンジした人工知能(AI)のことだ。2016年11月、残念なことにNIIは「東ロボくん」の東大合格を断念すると発表した。

 断念の理由は、特定の分野における学力不足だ。東ロボくんは計算力を問われる数学や、記憶した知識を当てはめれば解ける世界史といった科目は得意だった。一方で、読解力が必要な国語や英語などは苦手。文章の意味を理解できないのだという。NIIは、現段階では彼の弱点である読解力を東大の合格水準まで高めるのは困難と判断した。

 だが東大レベルには届かなかったものの、東ロボくんはきわめて優秀だ。2015年のセンター試験模試では、全国470余りの大学で「合格可能性80%以上」となっている。つまり、大多数の高校生が「読解力が弱いAI」に負けているのだ。

 プロジェクトディレクターの新井紀子教授は「(AIよりも)人間の子どものほうが文章を読解できていないのではないか」という仮説を立てた。そしてそれを検証するために2万人以上の中学・高校生を対象に読解力調査を実施した。

 新井教授が出題したのは教科書をベースにしたごく簡単な読解問題。ところが予想以上の誤答の割合に驚かされることに。

 AIならまだしも、人間でも、今どきの中学・高校生はろくに日本語の文章が読めなくなっているということか。いや、私たち「大人」だってわからない。改めて国語力をチェックしてみたほうがいいかもしれない。