特定の領域で人間を凌駕し始めた人工知能
「人工知能(AI)の進化が人間の存在を脅かすのでは?」といった話題を、最近よく耳にするようになった。確かに将棋や囲碁でAIがプロ棋士に勝利するなど、ある特定の領域では、AIの能力が人間に近づき、凌駕するようなケースが出てきている。
また、AIを搭載した自動運転車が普及すれば、タクシー運転手、トラック運転手のような職業は廃れていかざるを得ない。そのように、「将来人間はAIに仕事を奪われてしまうのではないか」と懸念する向きもある。今後10年から20年ほどで、米国の総雇用者の約47%が職を失う可能性を指摘する研究もあるそうだ。
有名な「ムーアの法則」によると、コンピュータのハードウェアの性能は18~24ヵ月で2倍になる。むろん、人間の脳はそこまで急速に性能を上げられない。だから、いったんある分野で人間の能力を超えるAIが登場すると、その分野で人間は再びAIの上を行くことはできない。さらに技術が進歩すれば、あらゆる面で人間の能力を凌駕するAIが誕生しても、少しも不思議ではない。
発明家で実業家、未来学者でもあるレイ・カーツワイル氏は、現在グーグルでAI開発の総指揮をとっている。2005年に出版した著書でAIが人間を超える時点を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、それを2045年と予測したのは有名だ。
そのシンギュラリティを、AIが人間を支配、あるいは滅ぼしてしまう時ととらえ、本気で心配する人もいるようだ。
しかし本書『シンギュラリティは怖くない』の著者、中西崇文氏は「その恐れはない」と断言している。
ちょっと落ち着いて人工知能について考えよう』
中西 崇文 著
草思社
192p 1500円(税別)
中西氏は2006年に筑波大学大学院システム情報工学研究科で博士(工学)の学位を取得。その後、独立行政法人情報通信研究機構でナレッジクラスタシステムの研究開発や、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事した経験を持つ。ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析などを専門とし、現在は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主任研究員、ならびに、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務める人物だ。本書の他に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)という著書もある。
本書で中西氏は、AIが急速に進化している要因を最近の事例を交えながら分かりやすく説明する。そして、人類はシンギュラリティを怖れる必要はなく、むしろAIを活用し、AIと恊働することで、ともに進化できるはず、といった持論を展開する。
だが、中西氏が言うように、シンギュラリティは本当に怖くないのだろうか。