紅葉が美しい秩父郡の長瀞(ながとろ)

80年代から続く
埼玉の伝統芸「地方ディス」

「地方ディス」という、ひとつの伝統芸のようなものがある。ディスは言うまでもなく、ディスリスペクト(侮辱)を意味する用語だ。

 お笑い芸人のはなわが出身地の佐賀県を自虐した歌「佐賀県」が大ヒットしたのは2000年代前半。地方ディス漫画を原作とした映画「お前はまだグンマを知らない」も今年7月に公開された。茨城県が魅力度ワースト1位を逆手にとってPRしたり、香川県が「うどん県」などと名乗ったりするのも地方ディスの流れを汲むものと見ていいだろう。

「自虐アピール」と「地方ディス」において、しばしば注目を浴びてきたのが今回の舞台、埼玉県だ。埼玉ディスの歴史は、もとをたどれば80年代まで遡る。当時その毒舌ぶりで人気を博していたタモリが「ダサイタマ」という言葉をメディアで頻繁に使用し、流行語となるほどだったし、1982年には魔夜峰央の漫画「翔んで埼玉」が出版された。

魔夜峰央『翔んで埼玉』(宝島社)

 この漫画は、東京で埼玉県民が虐げられる架空の世界を描いたギャグ漫画だが、長らく絶版となっていた。それが30年以上経って、2015年に復刊すると、テレビやネットで大きく取り上げられ55万部の大ヒットとなった。

 漫画の中身をのぞいてみれば、それはもう控えめに言っても「ひどい」の一言だ。埼玉から東京へ行くには通行手形が必要で、高級百貨店などうろついていると「埼玉狩り」でしょっぴかれ、埼玉へ強制送還される、といった具合に埼玉蔑視が描かれる。

「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」

 とか、

「ごまかしてもむだだ。埼玉県民特有のこやしの匂いがプンプンしてるわ!」

 などといったセリフも散見される。

 しかし、現実にはこの漫画が一番売れているのが埼玉県だという。漫画を読んだことのある埼玉出身者に聞くと、

「別に嫌な感じはしない。むしろこういうふうに取り上げてもらってちょっと嬉しい」

 と驚きのコメントが返ってきた。

 いったいなぜ、埼玉県民は、このように自虐的な作品を喜び、受け入れるのか。