iPhoneを世に送り出してから10年。売り上げの約6割をiPhoneに依存するアップルは、2種類の新機種を同時に発表するという異例の手段で、成長神話の復活をもくろんでいる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)
年に1度の“お祭り”としては、寂しい光景だった。9月22日、米アップルのスマートフォン最新機種、iPhone8の発売日。通信大手3社は恒例のセレモニーで発売を盛り上げようと努めたが、店外に例年のような長蛇の列はなかった。
世界でも類を見ない「iPhone好き」の日本ですらこのありさまなのだから、世界各地でも8の初速は低調。中国のあるアップルストアでは行列がたった2人だったことが報じられ、「恥ずかしい」との声まで上がっている。
ただ、出足が低調なのも当然だろう。なぜなら、8は現行のiPhone7の改良版。有機ELを採用した全画面ディスプレーや、顔認証によるロック解除などの新機能は、11月発売のiPhoneX(テン)に搭載されるからだ。
「予約の半分以上はXになるだろうと予測しており、案の定その通りになりそうだ」とKDDIの田中孝司社長が語るように、8は発売時点で既に“旧機種”のような存在。新し物好きのユーザーは皆、Xを待っている状態なのだ。
約7900億ドル(約88兆円)と世界最大の時価総額を誇るアップルは、2007年のiPhone発売でスマートフォンという新たな製品分野を開拓。以降、iPhoneの世界的なヒットの波に乗って躍進を遂げ、“成長神話”を紡ぎ続けてきた。
その成長神話に陰りが見えたのが、16年度の決算だった(図(1))。売上高は2156億ドル(約24兆円)と前年度から約8%ダウン。売上高の約63%(1367億ドル、約15兆円)を稼ぐiPhoneの販売台数の伸びが鈍化したため、15年ぶりに減収減益となったのだ。
今や世界で毎年2億台以上売れるiPhoneへの依存度の高さは、アップルの季節別の売上高にもゆがみを生み出した。