パソコンやスマートフォンの利用でビジネスパーソンの目の疲労が蓄積している。酷使される目の疲れで仕事の効率も悪くなり、それによる経済損失は莫大な額になる。ダイヤモンド・オンラインが実施したアンケート調査から浮かび上がった驚愕の事実をお伝えする。

BRICs経済研究所
代表 門倉貴史氏

1971年神奈川県生まれ。95年慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンクに入社。99年(社)日本経済研究センターへ出向、2000年シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)へ出向。02年4月から05年6月まで生保系シンクタンク主任エコノミスト。05年7月からBRICs経済研究所代表、同志社大学非常勤講師。専門は先進国経済、新興国経済、地下経済、労働経済学、行動経済学など。

 現代人の目をとりまく環境は大きく変化している。その背景にあるのは、デジタル漬けの現代社会である。スマートフォン保有率はこの5年間で大幅に増加して72%。朝の移動時間にスマホ、昼はパソコン作業、夜もスマホやテレビなど、現代人の目はデジタル機器で酷使され続けているのだ。

 この疲れ目は、個人だけの問題ではない。じつは今回、ビジネスパーソンの疲れ目による経済損失が、莫大な金額にのぼるという調査結果が出たのだ。

 ダイヤモンド・オンラインでは、今年9月に「目の疲れ」に関するアンケート調査を行なった。対象は読者であるビジネスパーソンで、回答サンプル数は1000人超。男性が約8割、女性が約2割で、年齢は40〜50代が中心となっている。

 質問の構成と分析を担当したのは、エコノミストでBRICs経済研究所代表の門倉貴史氏である。1000を超えるサンプル数は信頼性が高く、アンケートの結果は驚くべきものだった。

 まず目の疲れによって、1日の仕事の進捗にどれくらいの遅れが生じるか尋ねたところ、平均で「67分」という結果が出た。

 厚生労働省によれば、ビジネスパーソン(正社員)の2016年の時給は、2306円(『賃金構造基本統計調査』ボーナス、時間外手当を含む)。つまり目の疲れで67分間仕事が遅れると、1日当たり2575円の経済損失になる。さらに、目の疲れを感じるのは、平日5日間のうち平均「4.2日」という結果が出ている。

 これを1週間で考えると、経済損失は1万815円(2575円×4.2日)となり、1年間に換算すると、ビジネスパーソン1人につき56万2380円(1万815円×52週)の経済損失になる。

 現在、正社員の数は2016年で3367万人(総務省『労働力調査』)なので、日本全体で考えると、ビジネスパーソンの目の疲れによる経済損失は、なんと年間18.9兆円(56万2380円×3367万人)に及ぶのだ。

 18.9兆円とは、どれほどの額なのか。

 門倉氏は、「2017年度の日本の国家予算のうち、所得税収入として17.9兆円が見込まれています。つまり、目の疲れによる経済損失は、国レベルの所得税収を1兆円も上回る大きさになるのです」と説明する。

 また、16年に発表された米国のシンクタンク「ランド研究所」によると、日本人の睡眠不足を原因とした経済的損失は、国内総生産(GDP)の2.92%にあたる1380億ドル(約15兆円)だとされているので、この額を軽く上回る。

 さらに、視覚関係のビジネスと比較すると、VR(ヴァーチャルリアリティ)関連ビジネスの市場規模は、21年に全世界で2150億ドル(約23兆8000億円)になることが見込まれている(米国IDC調べ)。目の疲れによる経済損失は、VRの将来の市場規模に匹敵する額でもあるのだ。

「この18.9兆円という経済損失額は、あくまでも正社員の時給から換算したもので、非正規社員の時給も加えると、さらに大きなものになります」と門倉氏は続ける。非正規社員数は、16年時点で2023万人であり、時給は1443円。ここから非正規社員の目の疲れによる経済損失を算出すると、年間で7.1兆円。合計すると26兆円もの経済損失が発生していることになる。

 ここまで来ると、目の疲れは単なるビジネスパーソンの悩みではなく、日本の経済損失というレベルで見過ごせない現象であることが分かる。

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