近年、テレビや雑誌で特集され、一般にも広く知られるようになってきた「大人の発達障害」。しかし、いまだ誤解が多いのが現状です。そこで代表的な2つの障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如・多動性障害(ADHD)を2回にわたって紹介します。今回は、2008年に日本で初めて成人を対象とした発達障害専門外来を昭和大学附属烏山病院に開設した、ASDの第一人者である加藤進昌先生に、大人の発達障害の定義からASDの特徴や治療法について聞きました。

大人の発達障害、アスペルガーと高知能はコインの裏表周囲の理解が得られずに、仕事が立ち行かなくなってしまうことも… (写真はイメージです)

社会に出て初めて気づく発達障害

 発達障害は、先天的な脳機能の偏りにより引き起こされる障害の総称です。具体的には、社会性と対人関係の障害などを伴う「自閉症スペクトラム障害(ASD)」、多動・衝動性・不注意を症状の特徴とする「注意欠如・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算など特定の分野の学習に困難を示す「特異的学習障害(SLD)」などが含まれます。脳の特性とも言え、一生涯、これらの障害がなくなることはありません。

 このうち「大人の発達障害」として問題になるのはASDとADHDです。ASDとADHDが併存することもあります。

 大人の発達障害と言っても、大人になってある日突然発症するのではありません。生まれつき障害を抱えつつも言語や知的能力に問題はないため、軽症の場合、幼少期は家族や教師にも見過ごされてしまいがちです。

 学生時代は脳の特性から、「変わった人」「困った人」というレッテルを貼られ、本人も「他の人と違う」ことで生きづらさを感じつつも、環境や周囲の人のサポートにより何とか乗り切れます。

 しかし、社会に出ると、高度なコミュニケーションや臨機応変な対応ができず、仕事や人間関係がうまく立ち行かなくなります。そこで精神科を受診して初めて発達障害であることに気づくケースが多いのです。

 12年度に文科省が小中学生を対象に行った調査(※1)では、「対人関係やこだわり等の問題を著しく示す」というASDの特徴を持つ人は1.1%、「不注意または多動性-衝動性の問題を著しく示す」というADHDの特徴を持つ人が3.1%です。

 なお近年、発達障害の人が増えていると言われていますが、実際のところは発達障害という概念が一般に浸透してきたためだと思われます。