AIがあらゆる職場に浸透する日も遠くないかもしれません。そんな時代に、私たちに何よりも必要とされるのが「自分の頭で考える力」です。ベストセラー『地頭力を鍛える』で知られる細谷功氏が、主に若い世代に向けて「自分の頭で考える」とはどういうことかについて解説した最新刊『考える練習帳』。本連載では、同書のエッセンスをベースに、「自分の頭で考える」ことの大切さとそのポイントを、複眼の視点でわかりやすく解説していきます。

思考の世界と知識の世界では、「ギアの向き」が違う

 無知の知に続く大事なテーマは「思考回路の転換」です。

 人間は、成長するにしたがって知識や常識を身につけていきますが、何事にもいい面と悪い面があります。

 知識や常識は、人間社会で生きていくのに必要な様々なことを提供してくれる半面、一度覚えてしまったことは、良くも悪くも継続するために新しいことへの対応力を削いでしまうことがあります。

 これが、思考の世界でマイナスに働くことがあるのです。思考の世界と知識の世界では、そもそもの「ギアの向き」が違います。

 たとえて言えば、前向きに走っている人と後ろ向きに走っている人の違いといえます。つまり、価値観や基本的なスタンスが、全く逆を向いているということです。

 ここで難しいのは、乗り物と違ってこれは頭の中の動きであるために、目には見えないことです。

 しかも、「考えている人」から「考えていない人」はよく見えますが、「考えていない人」から「考えている人」は見えないというマジックミラーの関係になっているのです。

 もし、読者の皆さんが今「見えていない側」にいるとしたら、それを見える側に変えるのが本連載の目的であり役割です。

 見えないものを、できるだけ見えるようにするための手がかりを、この連載では提供できればと思っています。

 そのためのトレーニングとして「思考回路の転換(リセット)」にチャレンジしましょう。

世の中の価値観は「考えないこと」が主流

 そもそも、考えている人と考えていない人とでは、基本的な価値観やスタンスが違っています。そのことを認識しないままでのトレーニングでは、効果が出ないばかりか、下手をすればやればやるほど無駄になることにもなりかねません。

 ここで、そのことを強調しておく理由は、世の中の大勢を占める価値観がむしろ「考えないこと」を助長する方向になっているからです。

 おまけに、特に日本においては、教育の場でもビジネスの場でも、間違いなく反対の価値観が支配しており、ある意味で皆さんのこれまでの価値観を真っ向から否定することが必要になる可能性があります。

 これまでの価値観を引きずったままで本連載で解説していることを実行しようとすることは、まさに「リバースギアで」アクセルを踏み込むことになり、前に進まないどころか大怪我をする(させる)ことにもなりかねませんので注意が必要です。

 くれぐれも、ここで解説する「価値観の転換」がセットであることを肝に銘じておいてください。

自分の頭で考えているかのチェックリスト

 それでは、まずは、皆さんの思考回路がどちらを向いているのか、普段の行動パターンについて以下の10の質問にYesかNoで答えてみてください。あまりじっくり考え込まずに、直感的に答えてください。

【思考回路のチェックリスト】

1 わからないことは何でもネットで入念に調べる (Yes/No)

2 常に売れ筋や人気商品を購入する (Yes/No)

3 「ミスが少ない」ことがプロの絶対的条件である (Yes/No)

4 目上の人の意見は素直に聞いてそのまま実行する (Yes/No)

5 規律やマナーを重視する (Yes/No)

6 準備が周到にできるまでは行動しない (Yes/No)

7 「好きなようにしていい」といわれると不安に感じる (Yes/No)

8 お金と数字に強い (Yes/No)

9 常識を身につけていない人は困る (Yes/No)

10 協調性があり、上司や先輩にかわいがられる (Yes/No)

 いかがでしたでしょうか?

 Yesの数が多いほど、「自分の頭で考える」のとは逆の思考回路の傾向が強い人です。

 もし、7つ以上Yesがあった場合には、本連載は、あなたにとって自己否定につながるかもしれません。

 問題は、むしろ世の中ではこの問題にYesと答える人の方が多数派で、Noが多い人は少数派の異端児ともみなされることです。

 つまり「自分の頭で考える」というのは、ある意味で世の中の価値観に背を向けることなのです。

 では、この結果を踏まえて、思考回路の転換のためのヒントを、次回以降ではお話ししていくことにしましょう。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント、著述家
1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業。東芝を経て、日本アーンスト&ヤングコンサルティング(株式会社クニエの前身)に入社。
2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングのみならず、問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の企業や各種団体、大学などに対して実施している。
著書に『地頭力を鍛える』『まんがでわかる 地頭力を鍛える』(以上、東洋経済新報社)、『「Why型思考法」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)、『やわらかい頭の作り方』(筑摩書房)などがある。

※次回は、11月21日(火)に掲載予定です。