行動経済学的なバイアスを
うまく使ったアプローチ

 言うまでもなく、アイドルとリアルに触れ合うことができるというのは、ファンにとっては何よりの喜びであるに違いないから、CDの売り上げに拍車がかかることになるのは当然だろう。

 通常、CDなどの初回限定版というのは多くの場合、そのアーティストのポスターであったりTシャツだったりすることが大半だ。正直言って、かなり熱心なファンでない限りはあまり妙味のあるものではないので、もらってもがっかりすることが多い。ところがアイドルグループの場合、そういう特典につられて買ったからといって、ファンは決してがっかりすることはないだろう。彼らにとって、特典は価格以上に価値のあることだからだ。

 よく言われることだが、マス媒体での人気は移ろいやすいものであるのに対し、地道なライブ活動を続けている音楽アーティストは息が長いと言われる。レコードやCDは、誰でも好きな時にそのアーティストの音楽を聴くことのできるマス媒体であり、それなりに楽しめるが、残念ながらライブを通じたリアルなつながりには到底かなわない。

 CDの売り上げ自体も、ライブ活動とミックスされた時にこそ、売り上げが大きく伸びるという効果を生み出すことができるのも事実だろう。そういう意味では、こうしたアイドルグループの戦略は、あくまでもライブ、握手会といったイベントを中心に展開し、CDはあくまでもその付属に過ぎないといっていいかもしれない。

 ところが、逆にこうしたイベントを活用することによって、通常は1枚しか買わないCDを何枚も、場合によっては何十枚も買わせるという仕組みなのであるから素晴らしい。ファンでもなんでもない人にとって、同じCDを何枚も買うということは通常ありえないだろうから、このシステムを考え出したプロデューサーは本当に凄い。

 価値には普遍的なものと、そうでないものがある。特に個人の趣味や嗜好について感じる価値の大きさは、人によって全く異なるわけだが、それはやり方によってはバイアスをかけて価値の感じ方をより増幅させることもできる。

 アイドルグループの戦略を見るにつけ、こうした行動経済学的な「バイアス」をうまく使ったアプローチが、非常に高い効果を生み出しているということを実感する。

(経済コラムニスト 大江英樹)