>>(上)より続く

深夜のドヤに「ただ立っている人」
不気味な雰囲気に戸惑う

 夜22時以降から朝まで、寿地区の簡易宿泊所街は、人の声がほとんど聞こえることなく、不気味なほどの静寂さが保たれていた。簡易宿泊所内には至るところに防犯カメラが設置されており、その壁には「防犯カメラ作動中」という張り紙がしてある。

かつては寿地区にも銭湯があったが、今はコインシャワーのみ。もっとも、10分も歩けば中華街の銭湯を利用することができる Photo by K.A

 さらに不気味だったのは、深夜3時でも室外の階段には、ただ立っている人がいることだ。記者が泊まった簡易宿泊所だけではない。他の簡易宿泊所でも同じように、目立つところで人が立っているのだ。こうした人たちは、夜間だけではなく、昼間もそこにいる。

 これは防犯上の観点からなのだろうか。怖くて声を掛けるのははばかられたが、どう見ても何かを見張っているような、そんな雰囲気だった。住人たちに、こうした人物について聞いてみたが、迷惑そうな表情を浮かべるのみで、多くを語りたがらない。

 これについて、大阪市西成区役所での勤務経験が長い生活保護受給行政のエキスパートは、「あくまでも西成の例に基づいた憶測だが」と前置きし、次のように語った。

「恐らく、違法賭博のツケをためた住人が街から逃げないように見張っているのだろう。見張り役は、“誰かの紹介”で生活保護受給の手続きをしてもらい、寿地区に住みついた元貧困層の住民ではないか…」

 深夜、スマホを片手に、ただ立っているだけの人の見た目はごく普通、その年齢は30代、40代、50代とまばらで、なかには30代と思しき女性も混じっていた。

 三大ドヤ街のなかでも寿町は、山谷と西成とは違って実態がほとんど聞こえてくることはない。労働者の街に似つかわしくない高級車と、明らかに暴力団関係者と思われる怖い風情の男たち、そしてドヤ周辺に昼夜を問わず、まるで見張るかのように立っている人たち──。これでは、山谷や西成のように、ホームレスや労働者たちが自由に生活を送ることなど、できるはずもない。実際に来てみて、なぜ寿町の実態がほとんど聞こえてこないのかが、少し分かった気がした。