マンガだけが武器じゃない!
成し遂げられた「広大なミクロ経済学を俯瞰する」という離れワザ

 ここまで読んだ人の中には、「マンガで経済学を解説した本ならたくさんあるじゃない?」と思うかもしれない。

 その点も心配ご無用。山形さんによると、その違いは明確だ。

   従来の本は、学生やサラリーマンが特定の時事的なトピック――貿易摩擦、円高、産業構造、財政赤字など――を理解するための、アンチョコ的なまとめ方になっていたように思う。経済学の理論を最初からきちんとマンガとして説明する本は、あまり見かけない。
   おそらく、それをきちんとやった珍しい本はルイズ・アームストロング『レモンをお金にかえる法』とその続編くらいだろうか。が、これはストーリーを作るために描く内容をきわめてしぼりこんであり、ミクロ/マクロ経済学の理屈を多少なりとも俯瞰するものにはなっていない。

「じゃあこの本はできてるのか?」というツッコミが飛んできそうだが、実際のところ、どうして本書は「広大なミクロ経済学を俯瞰できている」と言えるのだろうか。

   グレゴリー・マンキューによる、経済学の10大原理(のうちミクロに関する7つ)をおおむねカバーしているからだ、というふうに理解すればいいかもしれない。
   特にPart3を中心に、こうした概念がきわめて似た表現で散りばめられているのがわかるだろう。

 つまりバウマンは、かわいいマンガとシニカルな笑いで単にわかりやすく「見える」本をつくったのではなくて、経済学に特有の概念や「経済学業界語」を一般の人もわかるように「翻訳」することで、経済学そのものの理解を助けるようつくり込んでいるのだ。ちなみにそのマンキューの「経済学の10大原理」(そう、バウマンがパロったものだ)のうち、「ミクロに関する7つ」は以下のとおり。

  •  1 人々はトレードオフに直面している
  •  2 あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である
  •  3 合理的な人々は限界的な部分で考える
  •  4 人々はさまざまなインセンティブに反応する
  •  5 交易(取引)はすべての人々をより豊かにする
  •  6 通常、市場は経済活動を組織する良策である
  •  7 政府は市場のもたらす成果を改善できることもある
  •  (※『マンキュー経済学』(東洋経済新報社)を参考にして作成)