1膳の菜箸が、運命に立ち向かう勇気をくれた

12年前、由美さん(仮名)は障害を持つ子どもを授かりました。

夫はほとんど休みなく深夜まで働いていて、頼れる親類や知り合いも近所にいません。

しかも、次に生まれた子どもも同じ障害で虚弱だったため、入退院の繰り返しです。

「どうして私ばかりこんな目に合うの!?」

そのうち自身がヘルニアで動けなくなり、手術をしても治らない状態になりました。

24時間逃げられない痛みの中での子育てはつらく、頼れるところもないまま「死ぬ以外にラクになる方法はない」と本気で考えるまでになっていました。

家の中が散らかり、汚れ、埃が堆積していく現実も、諦めと感覚麻痺でなんとかやり過ごす日々です。

やっと少しずつカラダが動くようになった頃、由美さんは断捨離に出会いました。

そして、断捨離のトレーナーや仲間に自己開示していくうち、泣くことすら忘れていた由美さんが、いつしか「泣き虫」状態になりました。

涙を流すことで、内に秘めていた思いを「出す」ことができるようになったのです。

しかし、笑顔を取り戻し「よし、がんばろう!」と決意するものの、家に帰れば、ゴミ箱をひっくり返したような状態。

相変わらず、何から何まで手のかかる子どもたち。帰りはいつも深夜の夫。

「目の前のことをやるだけで手いっぱいで、とてもモノと向き合う余裕なんてない!」と思っていた矢先、断捨離仲間から思いがけないメールが届きました。

そこには「今日の断捨離はこれだけです」と、捨てた1膳の菜箸の写真が添付されていたのです。

その瞬間、「え、これだけでいいの?これなら私にもできる!」という思いが湧いてきました。

由美さんは、すぐにキッチンの傷んだ菜箸を掴んで捨てたそうです。

そしてキレイな菜箸だけが残りました。その瞬間、ほんのささやかなスペースですが、毎日小さなイライラを重ねていた場所が、ごきげんな場所に変わったのです。

それ以降、由美さんに変化が起きました。

今まで「あと15分しかない」と何もできずに過ごしていた時間が「まだ15分ある!どこを断捨離できる?」と前向きなワクワクする時間に変わったのです。

行動を起こしたくてしょうがない衝動が湧くようになり、断捨離したことで「ウフッ♪」とごきげんに感じる場所も少しずつ増えてきました。

それまでは、どんなに参考になる話を聞いても、それを実生活に活かすことができなかったのに、「思考がサビついていた私でも、モノなら具体的にやれることが目の前にある!」と考えられるようになりました。

断捨離は「行動」した結果が目に見える形で表れます。

それが少しずつ、由美さんの喜びと自信になっていったのです。

さらに、障害を持つ2人の子どもを抱えた自分の運命に立ち向かう勇気も、湧いてきたのです。