「このホットク(韓国風おやき)のお店、知っていますか? 休日は行列ですごいんですけれど、今日は平日だから空いていますね」
JR大久保駅から歩いてすぐのビルで韓国語学校を経営している曺 恩禎(チョ ウンジョン)さん(38歳)が、ランチを食べに行く道すがら、街をあれこれと案内してくれる。
(ほお、これが噂のコリアンタウンか……)
と、半ばお上りさんのような気分でキョロキョロとあたりを見回す筆者。大通りに面して建つのは、観光客目当てと思われる韓国料理の店や韓国グッズを集めた土産物店、化粧品などを売るお店である。
「食べに行くならやはり、地元の韓国人が行く店がお薦めです。観光客向けのお店は高いですから」
イケメンのお兄さんがチラシ配りをしている姿には目もくれず、チョさんがそう言って案内してくれたのは、駅から10分以上歩いた路地を少し入ったところにあるこぎれいな居酒屋だった。
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自称“韓国のキャンディ・キャンディ”
恥ずかしながら、大久保がちょっとした観光地になっていると知ったのはつい最近のことである。お正月休みを利用して田舎から東京へ遊びに来ていた同級生の母親が「化粧品を買いたいから大久保に行きたい」と言うので驚いた。
「化粧品なら、新宿でも銀座でも、どこでも買えますよ」
そう言うと、友人が呆れてこう言った。
「違う、違う、うちのお母さんは韓国コスメを買いたいのよ」
聞けば、大久保では「カタツムリクリーム」や「毒ヘビパック」などの韓国コスメが、国産とは桁違いの安さで手に入るという。そうした事情は、東京に住んでいる筆者などよりも、地方に住んでいる友人とその母親の方がずっと詳しかった。
「そうそう、そういうのは地方の人の方が詳しいのよね」
チョさんを紹介してくれた知人の女性が、そう言って相づちを打つ。自他共に認める韓流好きだが、彼女もまた、大久保の街を訪れることはめったにない、という。
「私たちはほら、直接、韓国へ行っちゃいますから」
なるほど。
「ところで、チョさんはどうして日本に来ることになったのですか?」