よく言われる「失敗体験を通じて成長する」は、神話である。行動科学マネジメントの理論から見てどこが間違っているのか、『短期間で社員が育つ「行動の教科書」』から紹介する。

失敗を糧にできない人のほうが多数派

 部下を育てるにあたり、「失敗体験を通して成長を促す」という手法をとりたがる上司がいまだにいます。こういう上司は、部下が小さなことをやり遂げたときに褒めることはまずありません。それどころか、部下が失敗につながる行動をしていても、アドバイスを与えません。

 あえて失敗させるわけです。

 しかし、そんな権利が上司にあるのでしょうか。部下を育成することが上司の義務なのです。間違ったことをやっているのを知りながらアドバイスしないというのは、法律用語で言うところの「未必の故意」に近いのではないかとすら思います。

 そういう上司たちは、「人間は失敗を経験してこそ大きな成功をつかむことができる」という精神論を展開します。しかし、実際には彼ら自身、失敗を糧になどできていないことがほとんどです。

 失敗から多くの学びを得て成功につなげることができるのは、ハイパフォーマーの中でも一部の限られた人だけ。

 たいていは、失敗すれば自信をなくし「次にもまた失敗するに違いない」とマイナス感情を抱くようになります。脳は考えたことを実現していきますから、本当にまた失敗してしまい、すっかり萎縮するという悪循環に陥ります。

 だから、本当に仕事ができる上司は、部下にできるだけ失敗させないようにします。

 人がいい行動を繰り返すのは、それによっていい結果が得られるとわかっているからです。できる上司は、いい結果が得られる行動を教え、部下がそれによって成功体験を積んで、いい行動を繰り返せるようにしているのです。

「行動した先に失敗があった」という状況をあえてつくり出せば、部下の行動は止まってしまいます。