実物通貨と仮想通貨、日常と非日常、ヒトとAIの境界線がどんどんなくなりつつある今、私たちはどうやって生きていけばいいのか?
構想・執筆に2年。「愛」がテーマという注目のエンターテイメント小説『マルチナ、永遠のAI。』が話題を呼んでいる。ビットコイン、ブロックチェーン、ディープラーニング……正確な技術論と、その道の世界的権威の見解をもとに緻密に描いた作品で、SFではない、小説風の解説書という。
『エフエムふくやま』でも、「ページをめくる手が止まらなかった」と紹介され、映像化したいというオファーが舞い込んできたという大村氏の特別寄稿をお送りする。
(構成・寺田庸二)

ビットコインは使い物にならない?「ビットコインキャッシュ」誕生の意外な理由

なぜ、ビットコインは
実生活では利用されない?

 仮想通貨と言えば、何をおいてもビットコインでしょう。
 人類史上はじめて誕生した仮想通貨というブランドがありますし、すでにビットコイン決済ができる量販店なども登場しています。

 ただし、ここを勘違いしないでいただきたいのですが、客はビットコインで支払っても、そのときのレートで円に換算され、店舗側は「円」で代金を受け取っています。

 実際に、商品の値段がビットコインで表記されることはありません。
 1万円の商品はあくまでも1万円で、そのときのビットコインの価格が100万円なら、0.01ビットコインで支払えるという、厳密には「ビットコインの疑似決済」です。

 さて、このビットコインですが、今後、広範囲にわたる店舗決済や銀行の送受金のような「実体経済と連動した」使われ方はしないと私は個人的に思っています。

 むしろ、USBメモリ程度のハードウォレットに価値を保存できますので、「金(ゴールド)よりも手軽なデジタルゴールド」のような位置付けになっていくと感じています。

 私がそう思う理由は、ビットコインの「トランザクション問題」です。

 ビットコインは、極めて処理能力の低い仮想通貨です。

 第24回連載でブロックチェーンやビットコインのマイニングの基礎的な解説をしましたが、ビットコインのブロックの生成時間はおよそ10分と決まっています。

 そして、この新たなブロックには約4000件のトランザクション(取引)が記録されます。
 すなわち、「4000件÷600秒」で、ビットコインが1秒間に処理できるトランザクションは約6~7件です。

 まだほとんどの人がビットコインを使っていなかった時代にはこれでよかったのですが、2017年に入ると一気にビットコインが過熱しました。

 そして、まず日本の取引所でビットコインを購入し、そのビットコインを海外の取引所に送金して、そのビットコインでアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)を買う投資家が爆発的に増えました。
 しかも、これは日本のみならず、世界中で発生した現象です。

 結果、ビットコインはトランザクションを処理しきれなくなり、俗に言う「送金詰まり」が多発するようになりました。