「結論の先延ばし」「毎回の延長」「ズレる論点」「本音不在の議論」……どうして、日本の会議は変わらないのか? モルガン・スタンレー、グーグルなどに勤め、現在は独立し日本で二社を経営するピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、その答えを新刊『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ日本人の知らない会議の鉄則​』にまとめました。本連載にて抜粋してお届けします。

会議は本質的に「葛藤」の場である

日本の会議には「葛藤のマネジメント」が足りないピョートル・フェリクス・グジバチ プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト。ポーランド生まれ。2000年に来日しベルリッツ、モルガン・スタンレーGoogleを経て、2015年独立して現職。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのかグーグルの個人・チームで成果を上げる方法』『New Elite』『Google流 疲れない働き方』著者。

グーグルでは、「感情レベルの葛藤を減らし、アイデアレベルの葛藤を増やせ」という考え方が共有されています。

会議とは、必ず複数人で行うもの。個性も考え方も異なる多様なメンバーが意見を交わすと、そこにはおのずと「葛藤(=コンフリクト)」が生まれます。会議は本質的に、「葛藤」の場なのです。

「葛藤」と聞くと、なんだかネガティブなものに聞こえるかもしれません。実は、葛藤の中にもいい葛藤と悪い葛藤があります。よりよい答えを導くために「アイデア」同士がぶつかるのは、いい葛藤。逆に、アイデアではなく、話し合っている人の「感情」同士がぶつかってしまうのが悪い葛藤です。グーグルでは、この2つは明確に区別されています。しかし、日本人は両者を混同してしまっているように思えます。「和を以て貴しとなす」という感性も影響しているのか、感情レベルの葛藤を恐れて、何らかの意見を表明することすら、できなくなっているのです。

いまの日本の会議に必要なのは、感情レベルの葛藤ではなく、アイデアレベルの葛藤を増やすよう、マネジメントするという視点ではないでしょうか。

なぜ、グーグルの自己紹介は「長い」のか?

ふつう、感情レベルの葛藤を減らせ、と言われると感情を胸にしまって機械のように働くべきかと思ってしまいそうですが、グーグルのやり方はむしろその逆。社員がお互いにどんなことを思っているか、どんな価値観の人間なのかわかりあうことをどこよりも大切にします。

僕がグーグルに入ってはじめて驚いたのは、チームビルディングのときの自己紹介がとにかく長いこと。研修によっては一人五分ほどかけることもあります。「自分はどんな人間で、何をしてきて、どういうタイプで、こんなものが好きで、苦手で……」と、まったく仕事に関係ないことまで含め、延々と話すのです。

最初はなぜこんなことをするのかと不思議に思いましたが、働いていくうちにその意味がわかりました。相手がどんなタイプで、どんな場面でどんなことを感じる人間なのかを理解できていると、仕事がとにかく早く進むし、会議でもどんどん本音が飛び交うのです。

逆説的ですが、アウトプット重視の会社だからこそ、仕事に関係ないことまでオープンに共有する文化が育つのです。一方、日本の企業は、例外もたくさんありますが、どちらかといえば軍隊的なコミュニケーションが多いように感じます。個性や感情を持ち込むこと自体があまり歓迎されず、上の言うことは絶対です。会議でも、本音が飛び交うことはほとんどありません。

新入社員が「今日は頭が回らない」と言ってきたら、褒めろ

以前、とある会社のマネジャーと話していたのですが、「最近の新入社員はどうも根性が足りなくて、会議中に『今日はちょっと頭が回らないんですよね』なんて平然と話すんですよ。いったい、どういうことなんですかね?」と腹を立てていたんです。僕には信じられません。相手のコンディションがわかれば、その人にどんなサポートが必要か、どういうふうに接すればいいのか、客観的に判断できる材料になりますし、本人の状態はチームの生産性を考える上でも重要です。マネジャーが新入社員に取るべき態度は「今どきの若者はけしからん!」と心の中で憤慨するのではなく、「じゃあ、コーヒーブレイクでも入れたら!」と声をかけることのはずです。もし僕の会社だったら「今日はちょっと頭が回らない」と言った新卒は、「よく教えてくれた!いい自己開示だね」と、きっとその態度を褒めるでしょうね。

日本では、どうしても「弱音を吐く」ことにネガティブな印象を持つ人が多いように思います。けれども、お互いに人間ですから、いつも調子がいいなんてことはありえません。

それなのに、一日八時間ぐらいずっと一緒にいる仲間にすら自己開示できなければ、いいアウトプットが出せるはずがないのです。正直に打ち明けてこそ、チームは助け合うことができます。日本の会社は、もうちょっと一人ひとりの感情と状態を大切にしてもいいのではないでしょうか。

感情レベルの葛藤を減らすために、一人ひとりの個性や感情を抑えつけない。むしろ、どんどんオープンにして、相手に「自分がどんな人なのか」「いまどんな状態なのか」を知ってもらう。そんなチームには、自然と信頼関係が築かれていきます。

信頼関係があるからこそ、感情レベルの葛藤が減り、アイデアレベルの葛藤が増え会議の質が上がっていく。「いい会議」は、チーム内の信頼関係に支えられているのです。