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明るい未来のつくりかた
【第2回】 2012年4月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
市川文子 [株式会社博報堂イノベーションラボ 研究員]

アイスランド再生への知恵(1) 
困窮するシングルマザーが市民運動を起こした訳

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経済危機の影響で生活が立ちゆかなくなった、シングルマザーのアスタさん。フェイスブックを通して世界の人々と情報を共有する彼女は、アイスランドを出ても同様の課題にぶつかる、と悟り、彼の地で生活を続ける道を選んだ。そして、彼女をはじめ市民が力を結集して政府に訴え、新たな社会・経済システムを構築しようとしている。

 男が海に出る地の女性は強い、と言ったら偏見だろうか。気仙沼でも、アイスランドでも、凛として前を向いた多くの女性に出会った。

 アイスランドの女性で有名なのは、ヴィグディス・フィンボガドッティルである。アイスランド4代目の大統領であり、世界で初めて国民によって選ばれた女性のトップだ。1980年から96年まで4期16年の間、任期を務めた。シングルマザーであり、片胸を摘出した乳がん患者であった彼女は、選挙中、対立候補の男性から次のように揶揄された。「男でもないし、まして女としても半分しか機能していない人間が、大統領になれる訳がない」。彼女は選挙に勝ち、こう返している。「私はアイスランドを授乳して育てるのではない、アイスランドを率いるのだ」。

 近年、この逸話をTEDという国際会議で紹介した女性がいる。ハッラ・トーマスドッティル。女性投資家だ。彼女は2007年、友人のクリスティン・ペトルスドッティル(Kristin Petursdottir)とともにオイズル・キャピタル(Audur Capital)という投資銀行を設立した。複雑で分かりづらい金融派生商品は、一切顧客に薦めない。危機を経てなお、順調に成長している銀行のリーダー だ。

 ハッラさんは、TEDのスピーチをこう締めくくった。「男性か女性か。ビジネスか慈善事業か。そんな二者択一の議論にはうんざりだ」。多様な各者が役割を果たすことで、私たちはあらゆる変化に対応でき、持続可能な社会を築くことができる−−−それが、彼女の一貫した姿勢である。

被害者でありリーダーであることの自然さ

 金融危機後のアイスランドを理解するにあたり、いつの間にか経済危機の影響を受け、生活が立ち行かなくなった人の話を聞きたいと、巡り会ったのがアスタさん(40)だ。ただし、「被害者」というイメージを払拭する、これも力強い女性だった。フェイスブックで事前に見た彼女のプロフィール写真は、若干強面。5人の子供を持つシングルマザーという。

 そして、彼女は別の顔を持つ。「市民の草の根運動」を組織し、その代表として大統領とも議論を交わした活動家でもあるのだ。アスタさんも前述のハッラさんと同じく、二者択一を否定して生きるアイスランド人だ。被害者か、リーダーか。一般市民か、政治家か。こうした分断を越え、より多くの人を巻き込んで行くことでより大きな流れを生みだそうとしている。

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市川文子[株式会社博報堂イノベーションラボ 研究員]

株式会社博報堂イノベーションラボ研究員。慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。卒業とともにノキア・フィンランドに入社。以来9年間、ユーザエクスペリエンスのエキスパートとして世界各国で フィールドワークの実施とディレクションを行い、製品・サービスの企画開発に携わる。2008年にノキアを退社。以降、フリーのコンサルタントとして国内外の企業の商品ならびに戦略開発を行ってきた。2010年より博報堂イノベーションラボに参加。一児の母。


明るい未来のつくりかた

アイスランドは、金融危機による財政破綻で社会・生活の「断絶」を経験した。人々はどのように立ち上がってきたのか。その「断絶」と「再生」のプロセスを エスノグラフィーの手法を用いて学び、東日本大震災による社会の「断絶」から真の復興に向かうための考え方や仕組みづくりの示唆を得ていく。

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