6年前の白川前総裁の“予言”とは2012年の国際コンファレンスで、現在の日本銀行の苦境を予期していたかのような演説を披露した白川方明総裁(写真は当時) Photo:REUTERS/アフロ

 日本銀行金融研究所は、ほぼ毎年5月末ごろに、海外から中央銀行の幹部や経済学者を招いて、国際コンファレンスを催している。その冒頭の日銀総裁演説に、日銀の問題意識の変遷を見て取ることができる。

 例えば、2012年は当時の白川方明総裁が、日本の高齢化や人口減少がインフレ率に及ぼしている影響に言及した。そこには、海外のような2%のインフレ目標を日本で達成することは金融緩和策だけでは困難、という隠れたメッセージが込められていた。欧米でも高齢化や人口減少がこの先進めば、彼らの経済でも物価は上がりにくくなるとの“予言”が示されていた。

 異次元金融緩和策の導入から1年後の14年、黒田東彦総裁は政策金利がゼロ%でも金融政策の可能性はなくならず、コミュニケーションを通じた期待形成で経済を動かすことができるとアピールした。演説の「結び」部分では、ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの「どの時代にもそれぞれの課題があり、それを解くことによって人類は進化する」という前向きな言葉が紹介されていた。

 ところが、その後インフレ率が大幅に低下し、追加緩和手段にも困るようになった15年には、トーンの変化が見られた。「結び」部分で黒田総裁は、ピーターパンの「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」という言葉を引用した。つまり、インフレ2%の実現をみんなで信じることが何より大事、という精神論が強調されたのである。