既存のVC投資のモデルにははまらない

朝倉:エス・エム・エスは2017年時点で13期連続の増収増益で成長しています。うまく良いサイクルに入れたというのは、やはり、マーケットの選定が良かったからなのでしょうか?それとも場を広げていくことに成功したからなのか。何が、成長の要因なのでしょうか?

諸藤:ほとんどの起業家は自分たちの事業がスケールする前提で事業を始める一方で、エス・エム・エスの場合は知識がない状態から、キャッシュフローを獲得してマーケットインサイトを得てから事業を広げていった、というのが結果的に良かったのではないかと思っています。
僕の理解では、将来大きくなる潜在的な市場は、その複雑性から当初は顕在化している市場が小さすぎるので、大企業が収益を確保しながら参入できるだけの余地がない。また、そうした市場は、事前予測でのシステムアプローチをしようとしてもスケールしないために、Uberのようにワンプロダクトで突き抜けられない。単品のビジネスモデルだと、参入する旨味がないんです。高齢者向けの市場はまさにそれで、僕らにとっては幸運だった。

朝倉:高齢者向けの市場は、マーケットの条件として、大手が仕掛けづらいけれど、不確実性が大きく、それでいて将来大きくなる可能性がある、スタートアップにうってつけの市場だったということですね。ですが、世の中の多くのスタートアップは、ワンプロダクトで大きく成長していくことを前提としており、VCもそうしたストーリーに投資するとなると、従来のVCやスタートアップの発想だと、エス・エム・エスのような事業は創りづらいのかもしれませんね。

諸藤:起業家にしても、日本の場合、基本的にアメリカの事例をパクったワンプロダクトで上場できちゃうじゃないですか。何がアメリカのパクリでやれて、何ができないのか。それも、サイクルが回った段階で、VCからお金が付くか。多くの起業家は、そういう発想で事業を手がけていると思うんですね。そっちのほうがリスクは限定できますし、合理的に考えると、みんなそうなります。それがVCの役割や、若い起業家の役割になっているのではないかと思います。
同時に、そうやってワンプロダクトで上場した会社は、事業領域にフィットしなくなって、次に行けなくなることが多いとは思いますが。

朝倉:そこからの柔軟性がないと、時価総額100億円まではたどり着くことができても、メガベンチャーにはなれないでしょうね。

*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年12月16日に掲載された内容です。