今、マーケティング分野へのAI(人工知能)の活用が注目されている。カスタマーエクスペリエンスを実現するため、取得した顧客データをどう生かすべきなのか。デジタルマーケティングに詳しいガートナー ジャパン リサーチディレクターの川辺謙介氏に聞いた。

川辺謙介氏 ガートナー ジャパン リサーチディレクター
リサーチ&アドバイザリ部門 顧客関係管理/ カスタマー・エクスペリエンス管理担当

「機械学習の概念は以前からありましたが、AI(人工知能)の登場で変わったのは、データのボリュームが増えて、処理能力が上がり、役に立つインサイト(消費活動や購買意欲を促す潜在的な欲求のスイッチ)が本格的に使えるようになってきたことです」

 そう語るのは、ガートナー ジャパン リサーチディレクターの川辺謙介氏だ。川辺氏によれば、デジタル・テクノロジーの発展に伴い、企業では今、人手不足や働き方改革への貢献だけでなく、差別化要素としてカスタマー・エクスペリエンス(期待を上回るような、顧客による実感)を、デジタルによって実現させようとする取り組みが活発になっている。その顧客分析で注目されているのが、AI(人工知能)の活用なのだ。

 一般にデジタルマーケティングでは、年代・性別などの属性データや購入履歴やサイトアクセス履歴などの行動データが活用されている。AI(人工知能)によるディープラーニング(深層学習)で優良顧客を見つけ出すには、いわゆるビッグデータと呼ばれる大量のデータが必要になるが、ほとんどの企業ではデータが不十分で高い精度が出ないという課題がある。

「新規顧客獲得のためには、リードスコアリング(見込み客の点数付け)の精度の高さが必要になり、経験豊かな人間の“勘と経験”の方が、精度が高くなる場合もあります。しかし、そこで完璧を求めるのは間違いで、時間とコストを考えれば、100%ではなくAI(人工知能)を活用して80%を追求した方がいい。少量のデータでも学習方法を上手に設定すれば、適切なアルゴリズムが生成され、十分な成果に結び付くのです」