『週刊ダイヤモンド』11月3日号の第1特集は、「投資に役立つ地政学・世界史」特集です。本特集では、混迷する世界情勢を理解するために、押さえておくべき世界史の知識を紹介しています。米中貿易戦争も、世界史の知識をベースにして読み解けば、より深く理解できるはずです。今回、本誌で紹介した世界史の一つを特別にダイヤモンド・オンラインで公開します。

 「トゥキディデスの罠」が現実のものとなるのか──。米中貿易戦争が激しくなるにつれ、この話題を引き合いに出す数が増えてくる。

 古代ギリシャの歴史家トゥキディデスによるもので、台頭してきた新興勢力が既存の覇権国である大国に挑戦した場合、最終的には戦争に突入し、互いに疲弊することになるというものだ。

 そして米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が、過去500年間における類型を調査したところ、近代の日本やドイツを含む16の類型を見いだし、そのうち12のケースで戦争に至ったという(下表参照、参考文献)。

 その割合は、実に75%。現在の米中貿易戦争が実際の戦争に至るかどうかはさておき、「ここ数年の中国の台頭ぶりを、米国が脅威と感じるようになったのは間違いない」と言うのは、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏だ。

 なぜ、ここにきて中国が米国の脅威となったのか。宮家氏によれば、1972年に中国支持へ転換した米国のニクソン大統領が中国を訪問、国交正常化を果たしてからの中国の歴史について振り返る必要があるという。

 当時の中国は旧ソ連を脅威に感じ、それまで敵視していた米国や日本にすり寄ってきた。これが、外交革命だ。米国にしてもソ連が最大の敵であり、中国と組むことでソ連との間にくさびを打ち込み、冷戦を優位に運ぼうとした。