『週刊ダイヤモンド』2月16日号の第1特集は「あなたの周りのモンスター クレーマー撃退法」です。店員に土下座を強要する、同僚に暴言を吐く、SNSに悪評を書き込む。そんなモンスタークレーマーが急増しています。理不尽な要求を突き付けられ、精神的に参ってしまう人も少なくありません。しつこいクレームを断ち切り、モンスターを撃退するための実践的技術を伝授します。

 「おたくで買ったタイヤチェーンのサイズが合わなくて装着できない。いまからすぐにスキー場まで代替品を持ってこい!」

 理不尽な要求だと分かってはいても、客のあまりのけんまくに屈し、カー用品店の店員はスキー場までチェーンを届けた。するととんでもない言葉が飛び出す。「チェーンが届くまでの時間が無駄になった。その時間料を払え」──。

 モンスターは客だけではない。職場にもいる。

 「まだそんなことやってるの? 日が暮れちゃうよ。この程度のことならできると思ったのに、あなたに任せたのが間違いだった」

 中堅企業で働く20代の女性は、先輩で40代の女性社員に目を付けられていた。嫌みを言われるのは日常茶飯事で、誰かと話をしていると「ちょっといま何話してたの!」と詮索される。

 忙しいときにこちらから話し掛けると、「空気読んでよね! それどころじゃないの。見て分からないの? バカじゃない!」などと暴言を吐く。何をやってもキレる、まさにモンスターだ。

 いま世の中には、このようなモンスター化したクレーマーや社員が急増している。

 繊維、化学、流通、サービスなどの生活関連産業に従事する労働者によって組織されている労働組合、UAゼンセンが、2017〜18年に8万人余りの組合員を対象に行った「悪質クレーム対策アンケート調査」によると、実に7割強の組合員が「客からの迷惑行為に遭遇したことがある」と答えている。

迷惑行為を受けた人のうち「精神疾患になったことがある」と答えた人が1%、約600人もいる。「強いストレスを感じた」と答えた人は54%に上り、「軽いストレスを感じた」も合わせると、全体の約9割がクレーマーの迷惑行為によって精神的なダメージを被っているのである。

モンスター社員がもたらす影響も看過できない。モンスター社員が1人いるだけで月100万円の損失になるとの試算もある。

D言葉」を使わず「S言葉」で最初の5分を乗り切る

 経済的損失をもたらすクレーマーの撃退は、企業にとって喫緊の課題だ。ではどうやって撃退すればいいのか。100業種・5000件を解決してきたクレーム対応のプロ、エンゴシステム代表取締役の援川聡氏が、実践的ですぐに使えるクレーマー撃退の技術を明らかにする。

 「5分我慢すれば8割のクレームは解決できる」──。援川氏は、そう言い切る。

 怒りの感情というのは長続きしない。持続してもせいぜい5分程度だ。この段階では、先入観を持たず、ひたすら相手の話を親身に聴くことが肝要になる。相手は興奮しているので、決して反論したり話の腰を折ったりしてはいけない。

 また、相手の怒りを静めるためのおわびも必要だ。ただしそれは、非を認めるおわびではなく、不快な思いをさせてしまったり、不便を掛けてしまったり、手間を取らせてしまったりしたことへのおわびである。

 とにかく、最初の5分で「謝って済む問題」に持ち込めるかどうかが、クレームの早期解決の鍵なのだ。

 最初の5分で重要になってくるのが話術である。ここで絶対に使ってはいけないNGワードがある。「ですから」「だって」「でも」のDから始まる「D言葉」だ。感情的、一方的にまくしたてられるとついつい言いたくなる言葉だが、それでは火に油を注ぐだけ。ひたすら我慢し、相づちをうまく使って「D言葉」をSから始まる「S言葉」に変えよう。

 例えば「ですから」と言いたくなるのをこらえて、「さようでございますか」と相づちを打ち、「失礼いたしました」と言い換えると、相手は自分のことを理解してくれたと感じるだろう。

 5分たっても解決できなかったら、そこには必ず何らかの理由がある。次の段階では受け身の姿勢で話を聞き、相手の動機や目的を見極める。話を聞く時間は30分をめどにする。時間を決めて切り上げるようにしないと、相手のペースにはまってついついD言葉を使ってしまったり、出口が見えない苦しさから安易に要求をのんでしまったりすることになる。ここで解決を急ぐと、要求がエスカレートするので要注意だ。

 目安の30分を過ぎても相手が理不尽な要求を繰り返すようなら、「ギブアップトーク」を使う。「今すぐ答えろ!」「今すぐ来い!」などと迫られたら、「私一人では判断できません」「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」と返せばよい。ギブアップといっても相手の言いなりになるのではなく、一歩斜め後ろに身を引いて相手の土俵に乗らないようにするのである。

 ここまでやっても解決しないなら、相手は「モンスタークレーマー」だと割り切ろう。もはや「顧客満足」を優先する必要はなく、「危機管理」へモードをチェンジする。

クレーマー撃退法とは人とのコミュニケーション術

 『週刊ダイヤモンド』2月16日号の第1特集は「あなたの周りのモンスター クレーマー撃退法」です。

 世の中で、モンスター化した客や社員が増えています。背景にはさまざまな環境変化がありますが、中でもモンスターを生み出す元凶とみられているのが日本の過剰サービスです。

 デフレが進行し商品もコモディティ化して差別化が難しくなる中、日本企業は「おもてなし」によるサービス強化に走りました。消費者はそれが当たり前だと勘違いし、少しでも期待を裏切られるとキレるようになったのです。

 こんな話を聞きました。北陸新幹線が開通して、金沢駅では旅客が3倍になった一方で、クレームは10倍になったといいます。都会のせっかちな客が、時間の流れが違う金沢で「なにやってるんだ、急いでくれ」といら立ちを募らせたのです。

 特集では、「普通の人」がモンスタークレーマーに豹変する恐怖の事例を紹介しつつ、それを撃退するための技術を紹介しています。クレーム対応のプロが教える解決手順と話術は、まさに「目からうろこ」です。

 職場にいるモンスター社員への対処法をもまとめました。自分が一番という自己中社員、周囲に嫌がらせを行うハラスメント社員、都合が悪くなるとすぐうそをつくうそつき社員など、問題行動のあるモンスターの撃退法をぜひ学んでください。

 クレームを積極的に経営に生かす企業の事例も紹介しています。クレーム客の96%をリピーターに変えているカルビーの「お客様相談室」の守りと攻めのクレーム対応は、モンスタークレーマーに悩む企業にとって大いに参考になることでしょう。

 「クレーマー撃退法」というと、サービス業の方に向けた特集だと思われるかもしれませんが、そうではありません。クレーマーというのは周りの至る所にいます。家族、友人、職場の同僚、仕事の取引先、客。つまり、クレーマー撃退法とは、周りのあらゆる人とのコミュニケーション術にほかならないのです。ぜひ手にとってご覧ください。