その背景にあるのが、この大地に内在するある種の「罠」だ。

先ほどのイラストでも見て取れるように、この大地の端にはKPIの数字を表示する大きな電光掲示板が設置されており、つねに「成功・失敗」が明確にされている。

じつはその周囲にはほかの世界が広がっているにもかかわらず、人々は「この農地でKPIを高めることだけ」に縛られ、ここから外に出ていくことが考えられなくなっているのだ。

僕のところに相談に来る企業の多くも、この点に頭を抱えている。

「新しい商品・サービスを生み出そうとする雰囲気が、職場のなかにない……」
「ゴーサインが出るのは、最大公約数的に社内合意が取れる無難な企画ばかり……」
「ルールに従うのが得意な人材ばかりが育ち、前提そのものを壊す思考ができない……」

僕はこのようなメタファーを使って、特定の人たちを批判するつもりは一切ない。

「カイゼンの農地」に住む人々というのは、個々の人ではなく、誰もが部分的に持っている「属性」を擬人化したものに過ぎないからだ。

冒頭で述べたとおり、僕自身のメンタリティも、整然としたルールのなかで一定の見通しを持って“こなす”タイプの仕事には合致するところが大きい。また、起業家としての膨大な実務を抱えながら、家庭では子育てに追われる日々を過ごしていると、ついそうしたルーティンに陥っていることも少なくない。

僕も(そしておそらくは、読者のみなさんも)、部分的には「カイゼンの農地」の住人なのだ

人がストレスを感じるのは、自分ではコントロールできない状況に立たされ続けたときだ。その意味で、できるだけ予測や見通しが立ちやすい世界に身を置こうとするのは、僕たちの本能だと言ってもいいだろう。

しかし、この「農地」には前述の「波」と「霧」が迫っている。そうしたなかでは、むしろ、何もしないまま受け身でいるほうが、「コントロールできない状況」に直面しやすいし、結果としてストレスの度合いも高くなる。