佐宗 だとすると、人と人とのつながり、ネットワーク上で何かが起きているのではないかというわけですね。

佐山 そうです。個人だけに集中するのではなく、個人と個人との「つながり」の部分をキーファクターとして考えようというところが複雑系のキモですから、そういう意味でこれは完全に複雑系的な研究です。

「ひらめく人」と「実行する人」の
フュージョンは強力

佐山 一方で、これってわざわざ私たちが研究をしなくても、経営やマネジメントの経験のある人たちはけっこう肌でわかっていることなんでしょうね。「できる人」を10人集めたチームが絶対にうまくいくかというと、必ずしもそういうわけにはいかない(笑)。

佐宗 そうですね。経験上、僕もわかるのですが、分野横断にしたほうが創発は生まれやすいですし、それをイノベーションとして実現していくときには深い専門性をもった人が不可欠です。どちらかだけでもダメで、創発されても実現しないものもたくさんありますし、実現できる人がいてもアイデアがない場合もあります。両方もっている人がいるに越したことはありませんが、役割が違う人がいたほうがいい。
クリエイティビティにはいくつかタイプがあるのだと思います。それをどう組み合わせるべきかは、ファーストフェーズのときと実行するフェーズとでは変わりますね。つまり独創がより大事な「0→1」のときと、共創がより大事な「1→10」や「10→100」といった拡げていくフェーズとでは違うと思います。

独創? 共創? 優れたアイデアはどんな「場所」から生まれる?――ニューヨーク州立大・佐山教授に聞く

佐山 おっしゃるとおり、何もないところから何かを生み出す0→1と、実現(インプリメーション)はまったく違うフェーズです。私がいまの一連の研究でやっていることはどちらかというと0→1の部分ですね。実現のフェーズでは、しかるべきトレーニングを積んだ人や、スキルを持った経験者が必要で、そこにはまだ注目できていません。

佐宗 そういう意味では、僕の『直感と論理をつなぐ思考法』も、個人における0→1をテーマにしています。これにはいくつか狙いがあるのですが、チームでなんらかのアイデアを実現しようとするときであっても、「個人における0→1」ができる人がいるほうが、物事が前に転がっていきやすいですよね。チームで動かすプロジェクトであっても、それに対して自分なりのモチベーションやパッションを感じられている人がいるかいないかで、最終的なアウトプットが変わってくる。だからこそ、まずは「自分がやりたいこと」を自覚できて、その実現に向けて動ける人をつくりたいなと。そのためのガイドブックをつくれればと思って、この本を書かせていただいたんです。

(第2回に続く)