労働力不足人手不足が深刻になってきていますが、それに伴って賃金が上昇しても、労働力の供給は増えない可能性があります Photo:PIXTA

労働力不足になると、それ自体が一層の労働力不足の原因となる可能性がある。もしそうならば、従来の常識で今後を予測するのは危険になるが、一体なぜそのような状況に陥ると考えられるのだろうか。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)

賃金が上がると供給が減る?

 野菜の「カブ」は、人気が出ると値段が上がる。値段が上がると消費者が「カブではなく別の野菜を買う」ようになる一方で、生産者は「他の野菜を作らずにカブを作る」ようになる。そのため、カブの需要と供給は一度バランスを失っても、容易に一致するのが普通である。これが価格メカニズムだ。

 しかし、証券会社が取り扱う「株」は、そうなるとは限らない。ある株が人気になると、値上がりする。すると「この株は上がりそうだから、自分も買おう」という買い注文が増える一方、「この株は上がりそうだから、売るのはやめよう」となって売り注文が減る。つまり、需要と供給が一致しにくくなるメカニズムが働きかねない。

 もちろん、通常は無限に値上がりすることはないので、「株価が高すぎるから買うのをやめよう」「株価が高すぎるから売ろう」という投資家が増えてきて需要と供給が一致するはずだが、まれにそうならないケースもある。それが、バブルである。

 労働力についてはどうかというと、両者(カブと株)の中間的な存在かも知れない。「労働力の価格である賃金が無限に上がっていくバブル」は存在しないが、「値上がりが需要を増やし、供給を減らすメカニズム」は働き得るからだ。

時給が上がると働くインセンティブは下がる?

 労働力が不足すると、労働力の価格である賃金が上昇する。通常であれば、「それほど高い時給がもらえるなら、今少し長く働こう」という人が増えるので、労働力の供給が増え、需要と一致するようになるだろう。

 しかし、働く側の事情によって異なる場合もある。「サラリーマン家庭の専業主婦は、年収が130万円に達すると社会保険料の支払い義務が生じるので、130万円に達しないように働く時間を調整する人が多い」といわれている。「130万円の壁」といわれる現象だ。