「勝利の追求」よりも「個人の幸せの追求」がいい結果を呼ぶ

「自分らしさ」、「弱みをさらけ出す」ことで変わる自分

武田 ひょっとしたら多くの人にとってはリスクかもしれないですが、実は私はあまりリスクとは考えていないんです。結局、遠まわりに見えることのほうが結果的にはいちばん近道ですし、そうしていく中で、強固な組織や、成果を出せる強いスキームが必ずできてくる。

 たしかに皆さんが思い描くこれまでのリーダーや、パワフルなリーダー像からは遠いイメージかもしれないですけど、自分にはこのスタイルが合っていると思っています。無理に鎧を着たりせず、自分らしくあるほうが自然ですし、やはり疲れませんから。

「勝利の追求」よりも「個人の幸せの追求」がいい結果を呼ぶ武田雅子(たけだ・まさこ)
カルビー株式会社 常務執行役員 人事総務本部長。1968年東京生まれ。89年に株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターで店舗責任者を経験後、営業推進部トレーニング課にて現場の教育指導を手掛ける。その後戦略人事部にて人材開発などを担当し、2014年人事担当取締役に就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。2018年5月カルビー株式会社に転職、翌年4月より常務執行役員。全員が活躍する組織の実現に向けて人事制度改定など施策を推進中。

中竹 自分に合うスタイルが全然見つからないという人には、どうアドバイスされますか?

武田 自分とちゃんと向き合う時間を取りましょう、でしょうか。私も含め、意外と人ってちゃんと自分と向き合えていないんですよ。チームのメンバーや上司に振りまわされているうちに、他人のことばかりになってしまって。原寸大の自分をちゃんと見ている人って少ない。

 私の場合は、マインドフルネスがそういう時間になっています。あと、年に一度必ず断食に行くんですが、去年来たときの体のコンディションとどう違うか、転職して自分の環境がどう変わったか、自分の考え方がどのくらい変わったかなど、そのときに自分の棚卸しが自然とできるんですね。年に一度、自分の定点観測ができる感じです。

 それに、お腹が空っぽになると頭も空っぽになるみたいで、とても冴えるんですね。そうすると、「このことは自分のなかですごく変化があったな」とか、「このことは信念として守っているな」というようなことを、自分で観測できる。無理やりにでもそういう機会をつくるといいと思いますね。

中竹 ということは、どうすべきかは主にご自身で探っているということですか?

武田 そうですね。あとは、誰かと話して、聞いてもらうことで、自分はこんなことを考えていたんだとか、どんどんわかってくることももちろんあります。自分の中ではそれを「壁打ち」って呼んでいるんですが、自分の考えを固めることもできるし、気づかなかった部分に気づくこともできるので、とてもありがたいですね。

中竹 今のお話は「自分をさらけ出すこと」にも通じるんですが、人って自分の弱みに気づいていないことも多いんです。そういう人は、自分に向き合うと同時に、人と話して聞いたほうがいい。どちらかというと、聞いて教えてくれる仲間も大事ですけど、聞かなくても言ってくれる人をまわりに配置したほうがいいです。

 常に言ってもらえるような関係性を築く。そして言ってくれることに感謝する。せっかく言ってくれたのに、「いや違うから」となると、言ってくれなくなってしまうので、いつ不意打ちで嫌なフィードバックを受けてもいいように準備しておく。

 自分としては「そんなつもりでやったんじゃない」とか「誤解されている」というフィードバックもあるかもしれない。でも、言い訳したり、いちいち説明したりしないほうがいい。そうすると絶対にまわりに人がいなくなってしまいますから。それよりも、ちゃんと言ってくれたこと自体に感謝する。

 実際、人の自己認識って「正しい」「正しくない」ではなくて、誤解も含めて自己認識なんです。だからどのくらい誤解されているかということを理解するのが、実は本質的な自己認識。そこにもしかしたら本当の弱みが隠されていることもあるかもしれない。「それは私じゃない」ではなく、「そんなふうに私は見えているのか」というところに気づくことが大事ですね。

武田 とはいえ、会社でいきなり人をつかまえて、「フィードバックください!」と言うのは、難しいですよね。私は去年カルビーに入社したのですが、半年経ったころに「リーダーシップ・インテグレーション」というワークショップを行なって、そこでフィードバックをもらう形をとりました。

 あとは定期的に講演する機会をいただいたりするので、講演前に「自分自身のことを話すのにちょっとフィードバックくれる?」といったきっかけをわざとつくって、自分のいいところや悪いところをコメントしてもらったりしています。耳が痛いことも多いですが、それは自分がみんなにちゃんとお伝えできてなかったんだな、と思うようにしています。そういうことを何回かやっていると、嫌なフィードバックをもらうのも怖くなくなってくるので、訓練としてやるといいと思います。「この人はこういうことを定期的に聞いてくる人なんだな」と思われればラッキーで、そこからは聞かなくても日常的に言ってくれるようになる人もいますから。

中竹 そうですね。そこでフィードバックの言葉に引っ張られ過ぎないことも大事ですね。たとえば「八方美人」という言葉で自分を評されたとき、言葉としてはネガティブな印象を受けますよね。でも、裏表なくいろんな人と仲良くしたいということの表れであれば、むしろいいことですよね。意外にこういったステレオタイプ的な表現をされることで落ち込んでしまうこともあるので、あまり言葉に引っ張られないようにして、自分らしさ、オーセンティシティというのを見つけていけるといいと思います。

(了)