小中学生がプレゼンを学ぶ――。そう聞くと、意外に思われるだろうか? しかし、近年、小中学校や塾などで生徒たちにプレゼンの機会を与える取り組みが広がりつつある。何事も、人生のはやいタイミングで経験を積むことが上達の近道。「日本人の約9割がプレゼンに苦手意識がある」との調査もあるが、小中学生のときから、人前でプレゼンする経験をすることは、そうした傾向を変えるきっかけとして期待される。
 シリーズ累計25万部を超える『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』などの著者として知られる前田鎌利さんも、小中学生を対象とするプレゼン講座を実施している。どんな内容の講座なのか? (株)明光ネットワークジャパンが運営する学習塾・スタディクラブが、東京都羽村市のコミュニティセンターで実施した「小中学生のためのプレゼンテーション講座」と題するワークショップを取材した。(ライター:前田浩弥)

なぜ、いま小中学生を対象とする「プレゼン講座」が増えつつあるのか?

「孫正義を唸らせたプレゼン術」を小中学生に伝授!

 ワークショップのテーマは「今日から君が羽村観光大使! 羽村の魅力を再発見」。羽村市を知らない人に羽村の魅力を伝え、実際に遊びに来てもらうには、どのようなプレゼンをすればよいのか。参加者は6班に分かれ、前田氏とともに1時間半、じっくりとプレゼンの内容を練った。

 冒頭で前田氏は、「なぜプレゼンを学ぶことが大切なのか」を説明。「赤ちゃんのころは『泣く』というただひとつの行動ですべての希望が叶った。お腹がすいたら泣けばミルクを飲ませてもらえたし、おむつが濡れたら泣けばおむつを替えてもらえた。でも小中学生ともなると、泣いているだけでは伝わらない。自分の気持ちや希望は、しっかりと言葉にしなければ伝わらない。プレゼンはそのためのツール。ぜひプレゼンを学んで、自分の気持ちや希望を伝えられる人になってほしい」と語り、ワークショップに入った。

 ワークショップで最初に提示されたのは、次のフォーマットだ。

なぜ、いま小中学生を対象とする「プレゼン講座」が増えつつあるのか?

 これは、プレゼンの内容を考えるにあたって、空欄を埋めながら頭を整理するためのものだ。いきなりプレゼン・スライドを作り始めると迷走したり、収拾がつかなくなりがちであるため、事前に考えを整理しておくことが非常に重要なのだ。

 ご覧の通り、ポイントは「誰に?」「何のために?」「一番伝えたいことは?」「相手のメリットは?」の4つ。このうち「何のために?」は、すでに決まっている。このワークショップのテーマである「羽村市を知って来てもらう」である。

 そのうえで、まず「誰に?」を明確にする。北海道の人なのか沖縄の人なのか東京の人なのか、日本中の人々なのか海外から来た観光客なのか……。相手によって、伝えるべき内容や伝え方は大きく異なるため、「誰に?」を特定することはプレゼンにおいてきわめて重要なのだ。

 そして、「一番伝えたいこと」を決める。プレゼンはシンプルであることが不可欠だ。「あれもこれも」伝えようとすれば、何が言いたいのかわかりにくく、何一つ印象に残らないプレゼンになってしまう。メッセージがシンプルだからこそ、相手は理解しやすく、記憶に残すことができるのだ。

 さらに、「相手のメリット」も考えておくことも重要だ。プレゼンは単に、情報を伝えることではない。相手に「なるほど!」「それはいいね!」と心を動かしてもらい、こちらが望む行動を取ってもらうことがゴールだ。そして、相手が心を動かすのは、「自分にとってメリットがある」からにほかならない。だから、「羽村に来る」ことに、相手にとってどのようなメリットがあるかをしっかりと考えておく必要があるのだ。

 このような説明をしたうえで、前田氏は、自身の出身地である福井県鯖江市を紹介するという設定で、次のような記入例を提示した。

なぜ、いま小中学生を対象とする「プレゼン講座」が増えつつあるのか?

 誰に?:東京都内在住者
 何のために?:鯖江市を知って来てもらう
 一番伝えたいことは?:メガネとツツジとレッサーパンダで癒される
 相手のメリットは?:住みやすさランキング7位ののどかな町に遊びに来てゆっくり過ごして欲しい