中国湖南省長沙市。田畑も交じる新興工業団地に、2012年夏、真新しい工場が姿を現した。7月16日、一帯は賑々しい祝賀ムードに包まれた。住友ゴム工業が3億ドルを投じて建設したこのタイヤ工場の竣工式が盛大に催されたのである。

「ようやくこの日を迎えられた」――。工場を目の前に住友ゴムの池田育嗣社長は感無量だった。建設着工から稼働開始までわずか1年半。本来はこんな短期間で操業にこぎつけることなど不可能だ。同じ中国の江蘇省常熟市にある第一工場から立ち上げ部隊を総動員し、同社における過去最速のスピードで不可能をやってのけた。稼働当初は年産500万本体制から始め、第2期増強では1000万本を計画、さらに第3期以降の増強も早々に準備を進める。

 なぜ、無理を通して急ピッチで新工場を立ち上げたのか。

 中国市場でトップに立つ――。競争激化のなかで、シェア1割に未たない現在のポジションから覇者になる野望を実現するためには供給量を早急に増やすことが必要条件だった。「2番手グループのブリヂストンを上回るのは当たり前。我々のライバルは中国市場で首位の仏ミシュランだ」と豪語する同社幹部。日本国内ではブリヂストンに続く業界2位にとどまるが、中国市場においては「5年後にはミシュランに肩を並べる」と息巻く。

 では、勝算はどこにあるのか。何が勝負どころなのか。

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 まず一つはブランド戦略だ。住友ゴムが手がけているのは英国ブランドの「ダンロップ」。元々はミシュランや独コンチネンタル、伊ピレリといった欧州メーカーとしのぎを削ってきた由緒あるブランドだ。その点で日本生まれのブリヂストンや横浜タイヤとは立ち位置が異なり、中国でのプロモーションは「ヨーロッパ生まれの洗練されたイメージ」と「日本育ちの高品質」を全面に押し出していく。