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開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に
【第5回】 2012年7月31日
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開沼 博 [社会学者]

第5回
バブルに溺れた元経営者を支える
ヤミ金の「生活保護受給マニュアル」

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生活保護「不正」受給問題の報道が世間を賑わせたのはそう昔のことではない。しかし、井戸端会議の話題として消費される芸能人の離婚報告のように、生活保護問題の本質に目を向けられることのないままに、私たちの記憶からも薄れ始めていることは確かである。
社会学者・開沼博は、元会社経営者のM、そしてMの生活保護受給を斡旋するヤミ金業者Kに密着する。そして、彼らと同行するなかで、役所との想定問答集や担当者の実名と特徴までもが記されている、驚愕の「生活保護受給マニュアル」の存在を突き止めた。
メディアでは、強者による「正義の代理論争」が展開されていたが、「純粋な弱者」を前提とした議論からは決して見えてこないものがある。社会の複雑さをあぶり出す開沼博渾身のルポ。連載は全15回。隔週火曜日に更新(第6回は8月21日(火)更新予定)。

 競馬話に花を咲かせる生活保護受給者たち

 平日の午前中、区役所近くの喫茶店。50~60代の7人の男たちが談笑している。

 「先週のG1(レース)はさー」「持ってる券、色々転売したいんだけど、中古チケット屋でどこかいいのあるかな?」

 彼らの話題は多岐にわたるが、少なくとも「まともな社会人」のそれでないように見える。昼も近づいた頃、一通り話が落ち着くと「じゃあそろそろ」と誰かが言った。「今日は俺が……」と声を出したのがMだ。

Mの「保護変更決定通知書」には「差引支給額 120,530」と明記されている

 会計のためレジの前に立ったMは「領収書、頂戴」と仲間に聞こえるように言った。そして、宛名を聞かれると「○○区役所で!」と大きな声で答える。お得意の「生活保護受給者ネタ」が披露されると、皆が声を出して笑った。

 昨年還暦を迎えたMのもとに「生活保護決定通知書」が届いたのは、今から3ヵ月前。5月初旬のことだった。以来、毎月の決まった日になると生活扶助が約8万円、住宅扶助が約4万円。合計12万円を生活保護として受給している。

 会計を済ませた彼らは、「おー、どーも」「お疲れーまた」と声を掛け合って解散していった。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に

不法就労外国人、過激派、偽装結婚プロモーター、ヤクザ、チーマー、売春婦……。彼らはときに「アウトロー」や「アンダーグラウンド」と評され、まるで遠い国のできごとのように語られてきた。しかし、彼らが身を置く世界とは、現代社会が抱える矛盾が具現化された「ムラ」に過ぎない。そして、「あってはならぬもの」として社会からきれいに“漂白”されてしまった「ムラ」の中にこそ、リアリティはある。
気鋭の社会学者である開沼博が、私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ。彼はそこから何を考えるのだろうか? テレビや新聞を眺めていても絶対に知ることのできない、真実の日本を描く。全15回の隔週火曜日連載。 
 

「開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に」

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