「アート史上最も多作」なアーティストの代表作

ここでいったんサイコロの絵から離れて、ある有名なアーティストの話をしたいと思います。

その名もパブロ・ピカソ(1881〜1973)。美術に詳しくない人でも、「ピカソなら聞いたことがある!」という人は多いのではないでしょうか。天才や巨匠と称され、世界中の人が知るアーティストです。

ピカソは、1881年にスペインで生まれ、当時の西洋美術の中心地であったパリを拠点に活動しました。
彼は絵画という枠に留まらず、デザイン・立体・舞台芸術など、ほかにもありとあらゆる分野で、制作スタイルを次々と変えながら表現活動を行いました。

ピカソの生涯はとにかくエネルギッシュ。とくに驚かされるのは作品数です。
彼は多作のアーティストとしても知られているのですが、一生のうちにいくつの作品をつくったと思いますか? 3択で答えてみてください。

①多作とはいえ作品1つを仕上げるのは大変。一生で1000作品ぐらい?
②40年間、毎日ずっと1作品ずつつくったと仮定して、約1万5000作?
③同じ期間、毎日10点つくったとしたら、その10倍で……15万作?

正解は③、なんと15万点にも達します。「史上最も多作のアーティスト」としてギネスブックに載ってさえいる記録です。

なお、ピカソの作品数が多い理由として、彼の現役時代が長かったことも挙げられます。美術学校の教師であったピカソの父は、早期に息子の才能に気づき、10歳から本格的にアートを学ばせました。そのためピカソは、91歳という長寿でこの世を去る前年まで、約80年間も作品をつくり続けることができたのです。

おまけに、ピカソは恋愛に対してもエネルギッシュ。数々の女性との恋愛話があり、2度目の結婚はなんと彼が80歳近くのときのことでした。

拙著『13歳からのアート思考』でご紹介しているのは、ピカソが1907年に描いた《アビニヨンの娘たち》という絵です。アビニヨンというのはスペインの地名であり、5人の娼婦が描かれています。

キャンバスに油絵具で描かれたこの大作は、数あるピカソの作品のなかでも、とくに歴史に残る名作とされています。この絵のサイズはおよそ縦2.4メートル、横2.3メートル。日本の一般家庭の天井にも達しそうな大きさの絵画です(気になる方はぜひご覧ください)。

あなたはこの絵を「リアルな絵」だと思いますか?
そのとき、どのように「リアルかどうか」を判断していますか?

いうなれば、それが「いまのあなたのものの見方」です。

それとはまるで異なる「ものの見方」があり得る可能性について、ぜひ考えてみてください。

■執筆者紹介
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。