抵抗感だらけのピンクの表紙、それが書店の中で圧倒的に目立った

『伝え方が9割』はなぜ100万部売れたのか佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師
新入社員時代、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。連日、書いても書いても全てボツ。当時つけられたあだ名は「最もエコでないコピーライター」。ストレスにより1日3個プリンを食べる日々をすごし、激太りする。それでもプリンをやめられなかったのは、世の中で唯一、じぶんに甘かったのはプリンだったから。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。本書はその体験と、発見した技術を赤裸裸に綴ったもの。本業の広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ・Chemistryなどの作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。「世界一受けたい授業」「助けて!きわめびと」などテレビ出演多数。株式会社ウゴカス代表取締役。伝えベタだった自分を変えた「伝え方の技術」をシェアすることで、「日本人のコミュニケーション能力のベースアップ」を志す。
佐々木圭一公式サイト:www.ugokasu.co.jp
Twitter:@keiichisasaki

――ブルーと言えば、制作途中でもブルーになったときがありましたよね。最初は、一般読者向けに「伝える技術」を紹介する本を作っていたはずなのに、無意識のうちに「広告業界で評価されるものを出したい」という気持ちが働いてしまうんですよね。これって「著者あるある」で、誰もが無意識に思ってしまうことなのですが、それでは読者層が狭くなってしまいます。

佐々木 『伝え方が9割』の初めの事例は、「デートの誘い方」なんですよね。当時はそこがどうにも引っ掛かってしまい、「どうしてもデートが最初じゃないとだめですか?」と何度も聞いたりして。この本を読んだ同業者に「佐々木さん、デートの誘い方の本なんて出してるよ。ダサいな」と言われかねないなと思い、悩んでしまったんです。

「伝え方の技術」を紹介する事例はほかにもいっぱいあるし、例えば「上司に企画をOKと言わせる伝え方」が最初でもいいじゃない?って。でも土江さんは、「いや、絶対にそっちではない」と。

――「佐々木さんは、この本を誰に読んでほしいんですか? 広告業界のごく一部の、コピーライターに読んでほしいのか、それとも一般の人たちが読みたくなるような本にしたいですか。後者であれば、恋愛の話から始めたほうがいいです」とお伝えした覚えがあります。

佐々木 ズバリ言われて「ああ、当初の目的を見失うところだった」と目が覚めました。…でも、別に恋愛の話から始めなくてもいいだろ?というのは、実はずっと思っていましたけれどね(笑)。

しかし、いざ本が発売されたら、この出だしがすごくインパクトがあったと言われて。「やっぱり土江さん凄いな、疑って悪かったな」と思いました。

――ありがとうございます。発売後、すぐに重版がかかったんですよね。びっくりするぐらい、初速が良くて。

佐々木 え、そうだったんですか?著者なのにまったく知らされていない!

――木曜日に配本になって、その週末の土日の数字を見ていたらものすごく売れていて「なんじゃこりゃ!」と驚きました。初版8000部ですが、すぐ2万部になったはずです。

佐々木 これだけ初速が良かったのは、どういう理由からなんでしょうか?

――もちろんコンテンツの強さが一番だと思いますが、水戸部功さんが装丁されたカバーはとてもインパクトがあったかと思います。すごくシンプルなデザインで、タイトルも堂々としているし、白地にピンクがドンと効いていると思います。確か佐々木さん、当初はこのピンクも嫌だったんですよね?「本当にピンクじゃないとだめですか?」と何度も聞かれました(笑)。

佐々木 だって、「ピンク色」で「デートの話から始まる本」なわけですよ。そもそも、人生においてピンクという色を選択したことがない僕が、40歳のおじさんになって突然ピンクの本を出すなんて、そもそもどうなのか?と。でも、これが当時の書店では圧倒的に目立ったんですよね。おかげでたくさんの方に、手に取っていただくことができた。

――手に取ってパラパラめくってみたら、とっても読みやすいから「じゃあ買ってみよう」と思っていただくことができました。佐々木さんはコピーライターとしてすでに実績をお持ちだったから、コピーを書くように本のなかの一文一文が考え抜いて書かれていて、とても読みやすいんですよね。それに、米をギリギリまで削り、磨き上げる日本酒の「大吟醸」と一緒で、文章を何度も見直して磨き上げているから、実は文章量はそんなに多くないんです。

佐々木 図を大きくしたり、大事な言葉を大きくしたりしているので、ページ数の割にはサクッと読めてしまうのも特徴ですね。本を読み慣れない方に「初めて最後まで一気に読めました」と言っていただいたこともありました。

そういえば「図」で思い出しましたが、編集のタイミングですごく嫌だと思ったことがあって。

――どんなことですか??

佐々木 解説している文章と、それに関連する図の掲載場所がずれているのが本当に嫌で…。文章と図を一緒に見てほしいのに、図は次のページにずれていて、1枚めくらないと見られない。

ほかの編集の方に伺っても「よくあることだし、これが普通です」とおっしゃるんですが、僕はどうしても許せなかった。だから、同じページに図を持ってくるために、1ページ当たりの本文量を考えて、何度も削ったり足したりして図を少しずつずらしていって…。

――ゲラになってから文字調整にかけた時間と量は、すごかったですね。

佐々木 土江さんは「この人、面倒くさい」と100回ぐらい思ったと思います。100回じゃすまないかもしれませんが。

――いえ、さすがのこだわりだ、すごいなと思って見ていました。実際、初速で爆発的に売れて、その後も7年間ずっと売れ続けているんですから、なにも文句はございません(笑)。

佐々木 毎日、何百冊という本が今も発売されて、そういう新しい本が書店に入ってきたら、その分だけ売り場から外される本もある。毎日入れ替えが行われる中、売れ続けるには残り続けないといけない。そんな厳しい環境の中、ずっと売り場に本を置いていただけたのが嬉しいですね。