多くの有名SF作品に共通する普遍的な問い

 ところで、自らの身体を人工パーツに置き換えていくとき、どこまでなら「自分」でどこから「自分」でなくなるのか、アイデンティティの問題も考えさせます。この「自分の境界」という問題は押井守監督作品の映画『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(原作漫画は士郎正宗)のテーマの一つでもあります。

 ここには“自分のことは自分が一番よくわかっている”という一般的思い込みへの対比があります。まず、「自分で思い描く自己像」と「他者から見られた自己像」は、似て非なる対比になります。

 哲学者の鷲田清一さんは、『じぶん・この不思議な存在』の中で、他者こそ、自分が何者かを明らかにしてくれる“第一の鏡”だと指摘しています。

 「自分で思い描く自己像」に大きく関わっているものが記憶ですが、その記憶は客観的事実とは言えないものも多く含むようです。後から刷り込まれたものであったり、無意識に改変されたものであったり。P・K・ディックの『模造記憶』を原作とする映画『トータル・リコール』(ポール・バーホーベン監督 1990年)のモチーフも、記憶と自己像です。

 こうした対比的思考法があると、作品の味わい方を広げてくれますし、原作者がどのようなアイディア発想をしたのか、想像的に追体験できます。さらに自分のアイディア発想法に組み入れることもできるはずです。

(本原稿は、『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』からの抜粋・編集したものです)