今週前半に出張でニューヨークに滞在し、大統領選まで2週間というタイミングでの盛り上がりを肌で感じることができましたが、その中で日本との比較で気になったのは、マスメディアの報道がしっかりしていることです。
例えばニューヨーク・タイムズは、大統領選の特集に毎日5ページ程度の紙面を割いていますが、そこの記事を読むと、非常にしっかりとした政策に関する議論が行われているのです。
もちろんオバマとロムニーの間で激しい討論が行われていますが、米国のマスメディアは候補者の討論をただ報道するだけに止まらず、討論が不十分であった点について付加価値の高い問題提起や政策提言などを行っており、非常に読みがいのある記事をたくさん報道しています。
米国経済の本当の問題点を報じる
米マスメディアのレベルの高さ
そこで、今週は大統領選に関するニューヨーク・タイムズの報道の中で、特に重要と思ったものを紹介したいと思います。
同紙は伝統的に左寄りで大統領選ではオバマを支持していますが、それでも経済政策に関する論争ではオバマとロムニーの両者を批判しています。論争では税制、政府支出、社会保障、移民、金融規制など広範な課題が議論されていますが、米国経済が直面するもっとも深刻な問題については議論されていないからです。それは中間層の所得水準の低下と、それに伴う社会の格差の拡大です。
実際、家計所得の中位値は2000年をピークに11年も低下を続け、2011年には6万974ドルにまで8%も低下しました。その一方で米国の一人当たりGDPは2000年代を通じてほぼ順調に成長していることからも明らかなように、米国社会での所得格差は拡大しています。1980年と現在を比較した家計所得の変化をみても、社会の上位0.01%の所得(789万ドル)は2倍に増えているのに対し、ちょうど社会の平均値付近の所得(4万9000ドル)は11%しか増えていません。
そして同紙は、そうした格差拡大の最大の理由として、グローバル化とデジタル化を挙げています。グローバル化に伴い中間層の仕事ほど海外の安くて優秀な労働力にシフトし、またデジタル化の急速な進行に伴い、産業の如何を問わず中間層の仕事ほど機械に代替されるようになったからです。